此方は十六夜の蝶。
「俺たちは…、これから……」
「この町で生きる庶民というところでしょうか。自分で金を稼ぎ、朝起きて夜に眠る、そんな当たり前の生活をすればいいだけです。…ほんとうの名で」
信じられない。
一生出られないと閉じられていたはずの鳥籠が、こんなにも簡単に開けられてしまうだなんて。
いまだ状況が掴めないなか、俺の前にひとつの文が差し出された。
「っ……、」
ぐしゃりと握りしめる。
これは現実なのだと、次から次へと止まりそうにない涙によって夢から覚めた。
“しばらく返事ができていなくてすまないね、八尋”という書き出しは、俺が昔からよく知る字だ。
寅威・ウル───、
差出人は、俺の大切な友人夫婦。
「こんなやり方しかできなくて申し訳ない。……君たちは徳川家に無礼を働き、処刑されて死んだと、吉原のほうには伝える形になるだろう」