此方は十六夜の蝶。
不気味にわらう、狐。
そんな面を顔に取り付け、素顔は見えない。
柘榴(ざくろ)と朱殷(しゅあん)が交じった色の淡い着物は、みすぼらしい私をどこか恥ずかしくもさせてきた。
「お、きれいに割れた。ほら食いな」
つやつやと輝く米つぶ。
差し出されたそれを、思わず飛びつくように握った。
無様でもいい。
憐れでもいい。
生きるために必死だった、毎日。
「うっ、ぐっ、…んっ」
「そんなに急がなくとも、だれも取りゃしないさ。詰まらせてしまうよ」
ちがう、おいしいの。
止まらないくらい、おいしい。
こんなにも真っ白できれいな米など、今までの人生で1度たりとも食べたことがなかった。
「…髪、切ったほうがいいな」
ふと、独り言のようにつぶやかれる。