此方は十六夜の蝶。
もちろん寅威さんも好き。
ぜんぶぜんぶ、私も大好きで仕方がないの。
「そうだ。八尋たちから手紙が来ていたよ」
「えっ」
「どうにも、鷹が恋をしたんだと。みんな相変わらず仲良くやってるってさ」
「ええ!お返事かえさなくちゃ…!」
あれから鷹は、水月さん改め八尋さんと。
須磨さん改め江奈さんと一緒に暮らしている。
その家はいつかに久兵衛さんが用意してくれると言って、鷹の好みで造られた広々とした新居だ。
川が近くにあって、小高い丘でお弁当が食べられるような。
「返事はあとでいいから、まずは旦那さまを構ってくれないかな」
「っ、……はい」
「商店街に行こうか?主人に値引きしてもらって、またいっぱいおまけしてもらおう」
「…もう少し…、寅威さんとお家でゆっくりしたいです」
「…なら、怖じ気づいて暴れないでくださいね羽留姫さま。俺の愛に耐えてよ?」
「っ…、わっ、ひゃ…!」
また伸びた私の髪に通された簪は、緋古那さんから譲り渡されたもの。
十六夜を舞う、いつかのあなたが身に付けていたやさしい片羽の蝶。
それは私が心惹かれ、なによりも欲しがった───十六夜の蝶。