此方は十六夜の蝶。
手入れされていなければ結い紐でくくることさえできていない、伸ばしっぱな私の髪。
懐から取り出された鋏(はさみ)で、断りなく触れてくる。
ジャキン、ジャキン、
ぱっ、ぱっ。
「うん、このほうがきみに似合う。…ずっとこのくらいの短さで生活するんだよ」
「…わかった」
「いい子だ」
今朝まで降りつづいていた雨。
くぼんだ水溜まりが、ちょうど月の光に照らされて鏡になった。
「男の子…みたい…」
「いいんだよ。それでいい」
まるでそうするために切ってくれたよう。
このときの私は色気より食い気。
手にした握り飯を思い出して、再びかじりついた。
「やっちまった。俺は面をしているから食べられないぞ」
おどけるにしては下手くそだと思った。
顔に大きな傷でもあるのだろうか。
そこまで隠さなければいけない理由でも。