此方は十六夜の蝶。
「行こう。人力車を用意してある」
「ちょっと、待ちなよ水月。おまえは───」
「退屈だったんだ。退屈しのぎにはなる」
「…これだから気分屋は」
乗せられた座高の高い人力車、隣に同じように座る水月という名の花魁。
周りからの目を幌(ほろ)で覆って隠してくれる
私はどこに連れられてしまうんだろう。
この場所で男を買ったということは、朝までここにいるということ。
「なぜこんなところへ?」
「……さみしかったから、です」
「…そうか」
それから奥の宿場。
女の気分を奮い立たせそうな香り草が飾られた建物の2階、ひとつの座敷。
彼は本当に純粋にお茶を1杯と、和菓子を差し出してくれた。
「…家族は?」
「……います。けど…、独りが増えました」
「だから寂しくて俺に抱かれにきたと?」
「っ…、」