此方は十六夜の蝶。
そういうわけじゃない。
そうじゃない、ちがう、なんて言い訳はこの場所で通じる言葉ではない。
実質、お金がないにも関わらず彼を選んだのは事実なのだから。
「残念ながら俺は客を選べる立場だ」
「…でも…、断らなかったじゃないですか…」
「…………」
あのとき断られていたら、私はきっと緋古那さんを選んでいた。
単純に彼と話す時間は楽しそうだとも思っていたから。
心なしかあの紅は、胸に響いたのだ。
「断らなかった水月さんにも…、責任は……あります」
私をここに連れてきたのはあなただと、強気に言ってみてもいい気がした。
だって私は今、夢のような場所にいるのだから。
「…ふっ。まあ、あるだろうな」
お金にするとどれくらいだろう、今の時間は。
独り占めしてしまっている。
花魁を、私なんかが。