此方は十六夜の蝶。
「私は…、だめ、ですか」
着物が汚いからですか。
こんな女に紅を塗ったところで、野良犬に布を着せているようなものだからですか。
髪も短くて女らしさをとうに捨ててしまっているから、ですか。
「…来い」
呼ばれるまま、そばに寄る。
頬に触れてきた手のひらは、サラリと髪も撫でてくれる。
脈打つ心臓がいまだ幼さを含んだ自分を表しているみたいで、彼に聞こえないで欲しいと願った。
「髪の短い女は、俺は好きだ」
女の喜ばせ方も慰め方も知っている彼は、仕草よりも言葉が上手なのだと。
短い髪にわざわざ触ってくることは、女としては悲しいことだ。
けれど「好きだ」と言われただけで、こんなにも悲しさは吹き飛んでしまう。
「掟破りを堂々としているようで、嫌いじゃない」
「…気が強そう、ということですか…?」
「……そうとも言えるかもな」
だれを重ねているのだろう。
だれを思い返しているのだろう。
触れたら消えてしまいそうな笑顔で。