此方は十六夜の蝶。
「…回したかったら回せばいい」
肩に手を置いていいものかと躊躇っていると、クスッと微笑んだ水月さん。
回すことまでは恥ずかしいより前に申し訳なさを覚えて、そっと置かせてもらった。
これが………花街、遊郭。
男だけに与えられる幸せだとばかり思っていたが、女にも与えられるものだったとは。
「悲しいのか」
「…ちがいます。うれしい」
絶妙な空気感で魅せてくれる振袖新造(ふりそでしんぞう)たちの演芸が、もっと涙腺をふるわせてくる。
お金を払ってでもこの優しさが欲しいと、さすがに思ってしまった。
鷹よりも年上の男性の腕が、言葉が、こんなにも温かいだなんて知らなかった。
「これで満足したか」
「…え…?」
けれど三味線の弦でも切れてしまったかのように、パッと消えた音。
「どういった経緯で特例切手を手に入れたかは分からないが、よく下男も裏吉原まで入れたものだ」