此方は十六夜の蝶。
初めて家に帰らない日になってしまった。
昨夜はもともとそのつもりだったが、私は水月さんに帰された身だ。
ただ結果として、吉原で一夜を過ごしたことになるだなんて。
「緋古那さんが見つけて運んでくれたんですか…?」
「んー。うちで働く下男がたまたま見つけてきたのさ。どうやら熱があったみたいなんだけど…」
着物が擦れる音が響いて、私の額(ひたい)にひんやりした手が重なった。
「ん。良かった、治っているね」
「…ありがとうございました。ご迷惑をおかけして……ごめんなさい」
「ご迷惑って、俺はここで鼻歌うたってただけ。礼なら……この薬を持ってきた水月っていう十六夜にでも言ってやりな」
ドクンと、ほらまた。
不安と期待が混ざっておかしくなりそうだ。