此方は十六夜の蝶。
たまたま特例切手を手にしたに過ぎない私は、本当はここに来ていい人間ではないこと。
昨夜も水月さんに場違いだと追い返されてしまったこと。
包み隠さず話すことがせめてもの筋だと思った。
「まあ…、そうだろうとは思ってたよ俺も。でも実際、あんな涙を流してくれる女の子をここで見たのは初めてだったから」
あんな涙、とは。
私が紅を付けられただけで泣いてしまったことだろうか。
情けなかった、恥ずかしかった。
でも、うれしくてたまらなかった。
紅を付けられるような生活をしていたなら流れてはいない涙だったのだ。
「あれはやられるよ。…男なら誰だとしても」
「ほら食いな」と、やさしく言ってくれる緋古那さん。
器を落としてしまわないように、なるべく音を立てないように、恥をかかないように。
震える手で、なんとか朝食をありがたく頂いた。