此方は十六夜の蝶。
「なんだったら内湯にも入っていけばいい。この時間ならみんな二度寝しているだろうし、俺が案内してあげるから」
そこまではさすがにと、首を横に振る。
あなたは下級郎子のふりをした太夫。
あのときそれを聞いていたのは私だけだったことが良かったものの、他の女性たちが耳にしたならとんでもない真実だ。
「遠慮しなくたっていいのに」
「下男の方に見つかりでもしたら…」
「俺と一夜を共にした太客ってことにすれば問題ないだろ?」
「そんなの…、逆に緋古那さんにご迷惑です」
「そこでだ。俺に良い案があるんだけれど」
急に変わった空気感に、思わず顔を上げてしまった。
「これ、ウルにすごく似合うと思うんだよ」
どこからから取り出したのか、上質な着物がひとつ。
先ほど以上にすぐにぶんぶんと首を横に振った。
こんなのダメ、ぜったいだめ。
私に似合う似合わないの問題ではなく、高貴な方から着物を受け取ることなどご法度。