此方は十六夜の蝶。
しかしながら私の考えていることを安易に悟られてしまうのも、この場所にしかない習性。
ふっと微笑んだ緋古那さんは、やわらかく言葉を紡いだ。
「じつはこの着物、俺の付添人をしてる婆やの手作りでね」
「…昨日、いた…方、ですか」
「そう。俺の顔が女みたいだからって、女物の着物ばーっかり作るんだよあの婆さん。
そういう売り出し方もアリっちゃアリだけど、なんせ余っちゃって余っちゃって」
そんなふうに言われたら受け取っていいのかなと、思ってしまう。
銭湯にも滅多に行けない私が湯を勧められ、しまいには着物まで贈られるだなんて。
まだ夢のなかにいるんじゃないかと、私は信じがたかった。
『まあ、金のことは心配すんなって!おまえが欲しがってた着物だろ?オレだって女の着物くらい買えんだよ!』
ふと、受け取ろうとした腕と目尻に溜まっていた涙が一緒に引っ込む。