此方は十六夜の蝶。
「水月はね、あいつはただひとりの女だけをずっと……愛しているから」
ぼんやりした気持ちで聞いていた。
私だったら、それが私だったならという期待は、正解ではないだろうから。
……と、それくらいに置いておかなければいけないのだ、きっと。
新しい着物がみるみるうちに私の肌へと通されてゆく。
気づけば涙が消えていた代わり、くすぐったさともどかしさに何度か肩が跳ねてしまえば、くすっと甘く返ってきた。
「───やはり婆やが作ってくれたほうが良いんじゃないかな。本当にこれでいいの?」
「…はい」
身に付けられた懐かしく、思い出の色。
帯もあの頃のキツネさんが使っていたまんまだ。
「やっぱり紅、付けたいな。誰かさんは似合わないとか言っていたけれど、まーったくそんなことなかったからね」
美男子に言われても……という複雑さと、紅すら付けられない自分の身分を思い出しては視線が下がる。