此方は十六夜の蝶。
花魁の顔と普段の顔を器用に使い分けているとするならば、こちらが普段の顔…?
それにしても結局は緋古那さんの手回しだったと。
「水月さんには……ずっと愛している女性がいると、聞きました」
それは誰ですか?とまで、そこまで聞けなかった私はやっぱり十六夜だ。
せせこましくて意地っ張り。
この際だからという好機を、最後まで活用できない。
「…緋古那の言葉には疑いから入ったほうがいい」
「え…?」
「あいつの良いようで悪い癖だ。緋古那は平気で嘘をつくからな」
訪れた沈黙と静寂は、なぜか緋古那さんの噂事となって返ってきた。
「だがそれは……絶対として恨めないのだからタチが悪い」
私はそう言われて、はっきりと告げたのだ。
「緋古那さんはやさしいひとです」と。
そして彼も「じゅうぶん知っている」と、言った。