此方は十六夜の蝶。
遠愛
『…どこ行ってたんだよ』
『……ちょっと、いろいろあって…』
鷹との最後の会話はこんなものだった。
以来、とうとう帰ってこなくなった。
それまでは夜まで帰ってこなかったとしても、明け方に帰宅していたから朝にはいた。
しかしもう、連日として帰ってこない。
このまま会えないだろうと、最後の会話が物語っていた。
『……おまえ最近、オレに隠し事ばっかだよな』
『鷹だってたくさんしてるよね』と、返してしまったんだ私は。
つい意地になって言ってしまった。
言葉なんか、それくらいで十分。
あとは私の着物を見れば、鷹の心情なんてものはひとつだ。
「これ…、かなりの代物だよ。いいのかい?本当に売ってしまって」
「……やっぱり…やめます」
「うん。それがいいと思う」
小間物屋の店主に断って、私はひとつの置物を持ち帰った。
獅子か、虎か。
繊細に彫られた置物はどうにも、彼が予想していた以上の値打ち額が付けられそうだったのだ。