此方は十六夜の蝶。
そりゃあ、そうだよね。
あの場所にあるものが安価なわけがない。
「どうしよう……」
こんな高価なもの、私が持っていてもいいの…?
返したほうがいいんじゃない……?
しかし返すためには再び裏吉原に行かなければ不可能で、あの門を潜るには金が必要になる。
この悪循環から抜け出す方法など、私には無いに等しかった。
「……お恵みを……もらいとぉございます…」
よく使っていた言葉を久しぶりに繰り返した。
薄い布団に横になった夜はあれから、キツネさんの着物を握りしめながら眠りにつく。
食料も底を尽きてきた。
野菜もこの季節では育つものも育たない。
緋古那さんの前ではあんなふうに強がったけれど、鷹がいなくなってから食事代にすらお金を使っていなかった。
会いに行けない。
待っててくれているのだろうか、今も。
「っ……!!」
─────カタン。
気づいたのは、朝方。
戸の前から小さな物音がして、私は飛び起きた。