此方は十六夜の蝶。
よくこの場所が分かったものだと思っていると、察した彼は「それも水月から教えてもらった」と、常套句のように言う。
そのためだけにあの場所を飛び出すあなたは、やっぱり変わっている。
「あの置物、意外と金にならなかった?」
「……売ることができませんでした」
「ええ、売れもしなかったの?ごめん、俺の目利き的には価値あるかなって思ってたんだけれど」
「ちがいます、私が…売れなかったんです」
着物と一緒に家宝にしていますと、家のなかを少しだけ見せる。
いま着ている着物も貰ったものではなく、それまで私が着ていたもの。
「売れなかった、って?そりゃあ着物だって…あれは男用だもの。本当は我慢していたんだろう?」
と、ここでも不安そうに聞いてくる緋古那さん。
そうじゃないと否定をして、私がどれだけ大切にしているかを伝えた。
汚したくない、破りたくない、なくしたくもない、私の宝物たち。
あなたからせっかく頂いたものを粗末にはできない、と。