此方は十六夜の蝶。
「……なぜ、また来た?」
聞かれるだろうとは思っていたが、実際に聞かれてしまえば言葉に詰まる。
迷惑でしたか。
私の顔は、もう見たくもありませんか。
「ずいぶんと緋古那が気に入っているようだから、あいつの手回しだとは分かっている。…言ったはずだろ、おまえにこの場所は向いていないと」
「……男のひとは、本当に男の人になってしまうんですね」
ポツリと、本音がこぼれる。
文句や責めと受け取ってもらって構わない。
そのつもりで私も言ったのだから。
「声質も口調も、たった幾年だけで……男の人になってしまわれるのですね」
「…本当にそうかな」
してはいけない期待を、彼が作ってくれたような気がして。
私はスッと顔を上げてしまった。
切れ長で鋭い瞳が同じように、私のことを見下ろしてくる。
「……あなたに…、会いたかった」
「……………」
「キツネさんは、あなたでしょう…?」
神様みたいな人だと思った。
乞食でしかなかった私に、あなたは握り飯を半分どころかぜんぶ与えてくれたの。