此方は十六夜の蝶。
第二章
失恋
緋古那さんには申し訳ないけれど、もう私は、あの花街へと行くことはない。
前回行ったときに緋古那さんから貰ってしまったお金は、一銭も使わずに取っておくつもりだ。
機会が訪れたら必ず返すと誓って。
あんなにも苦しくてせつない思いをするのは、もういやだ。
「………うそ、だ」
しかし、届いた1通の手紙。
差出人は“緋古那”と達筆な文字で書かれていて、封を開けてから気持ちが揺れ動いてしまったことが悔しい。
水月がきみに会いたいと言っている───だなんて。
いかない、嘘だ。
あんなものを見せておいて私に会いたいだなんて、こんなこと言いたくはないけれどふざけている。
私を侮辱するなと、言ってしまいたい。
「…来てくれてありがとう、ウル」
“大海屋”と書かれた看板が立てられた、ひとつ。
もうしばらくすれば私は通人になってしまいそうだと、怖くもなった。
結局のところ来てしまった私に、緋古那さんはふんわりと微笑む。