イヴの鳥籠~エリート貴公子の甘い執着愛
「テ、テオドールさんっ!?私歩けますから、」

「靴を履いていないでしょ?裸足でなんて歩かせられないよ、ケガでもしたらどうするの?」

(…そういえば、そうだった)

会場を出て馬車に乗せられたときも、テオドールさんは裸足の私を抱き上げて乗せてくれたんだった。


私がテオドールさんに抱えられたまま、目の前に聳え立つお城のような大きなお屋敷を見上げて驚きで声が出なかった。

シンメトリーの外形に華やかな彫刻が施されたペディメント。その奥には塔のような建物もある。

振り返ると、外門から玄関前までは丁寧に手入れされた庭が続いていた。その広大すぎる敷地と荘厳なお屋敷――いや、館といった方がいいかもしれない――を前に、私は呆然としてしまった。

以前メイドとして勤めていたボードウィン伯爵家もとても広いお屋敷だったけれど、それとは比較にならないくらいのスケールの違いに圧倒されてしまう。

「テオドール様、おかえりなさいませ」

出迎えた執事長と思しき男性が深々と頭を下げると、その後ろに並ぶ使用人やメイドたちも揃って頭を下げる。

「アンゼリカを連れ帰った。まずはすぐに湯浴みと着替えの準備を」

「ご用意はできております」

「彼は執事長のセトだ。この屋敷の中で一番信頼の置ける使用人だから、アンゼリカも何か困ったことがあったらセトを頼るといい。もちろん僕がいるときは僕を頼ること。いいね?」

「は、はい…」

私は抱き上げられている状態が恥ずかしくて仕方がないけれど、二人とも気にした様子もなく話がどんどん進んでいってしまい、私は曖昧に返事をするしかなかった。

「初めましてアンゼリカ様。お目にかかれて光栄でございます」

セトと呼ばれた男性はおそらく20代半ばか30代前半といったくらいの若い男性だった。
執事長というとボードウィン伯爵家でもそうだったように、屋敷の使用人の中でも重鎮かつ歳を重ねた男性というイメージだったので、その若さにびっくりしてしまった。

「そんな、光栄だなんて…頭を上げてください」

過去はどうであれ、私はついさっきまで闇オークションに売られ番号で呼ばれていたような身分なのに。

私の言葉にもセトさんは微笑みを絶やさないまま、右手を胸に当てて一礼をすると「こちらでございます」と機敏な動きで屋敷の中へと進んでいった。

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