イヴの鳥籠~エリート貴公子の甘い執着愛

3. 謝罪と告白

私の告白に、今度はテオドールさんが驚き動揺しているのが伝わった。

「……記憶が、ない?」

「はい。ごっそりと記憶が抜け落ちているとか、そういうわけではないんです」

父や母、家庭教師やメイドや使用人たち、私が6歳のときに亡くなった祖父母など、一緒に暮らした皆の顔は覚えている。あとは屋敷の外観や部屋の内装なども。

「でも、家族で過ごした団欒だとか、友達と遊んだ記憶。そういった日常の何気ない記憶はすべてが朧気で、ほとんどが曖昧でぼんやりしていて…」

断片的に覚えていることはある。
でもよく思い出そうとすればするほどどんどん霧がかって遠ざかってしまうような、そんな曖昧なものになってしまっているのだ。

「だから、テオドールさんと過ごした夏のことも思い出したいんですけど……」

―――ごめんなさい。

テオドールさんはずっと私を気に掛けてくれていたのに、当の私は自分のことを忘れてしまっている。

きっとひどくがっかりしているか、呆れているに違いない。
そう思うと怖くて、でも謝ることしかできなくて、私は目を逸らして俯いた。

すると、ふぅわりと――頭に温もりを感じた。


「謝らなくていい。君は何も悪くないんだから」


それがテオドールさんの大きな手だと分かると、私の視界がじわりと滲む。


「アスバルを離れてからどうしていたのか…教えてくれるかい?もちろん覚えている範囲でいいよ。アンゼリカのことを、もっとよく知りたいんだ」

「……はい」

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