イヴの鳥籠~エリート貴公子の甘い執着愛
「む、無理ですそんな、私」

「どうして?アンゼリカは、僕のことが嫌い?」

「そうではなく…!お、お忘れですか?私は取り潰しになった家の出身で、非合法の…人身売買の場で売られていたような卑しい身分なんです。それなのに、そんなこと許されるはずが、」

「卑しい身分?誰がそんなことを言ったの?」

すっと目が細められて、私は息をのむ。

「君の出自など関係ないよ。それに君があの場にいた記録はすべて抹消しているから問題ない。手続きに時間がかかったのはそのためなんだ。
ほらあのオークションの支配人、モノクルの男を覚えていない?彼とはいろいろと…持ちつ持たれつの付き合いでね。そこは上手く取り計らってくれているから心配はいらないよ。

屋敷の使用人…セトたちも、僕がそのつもりでずっと君を探し続けていたことを知っている。そもそも僕が誰を妻にしようと、僕に楯つく人間がこの国にいるとは思えないけれど」

テオドールさんの口調は穏やかなのに、私が上げる懸念のすべてを片っ端から切り捨てていく。

言葉を失ってしまった私の右手を、テオドールさんはそっと持ち上げて手の甲にキスをした。

「でも、私記憶がないのに…」

「今はそれでもいい。ゆっくりと思い出してくれたら」

上目遣いで私を見つめるはちみつ色の瞳は、蕩けるように甘く、それでいて燃える火花のような炎を湛えているように見えた。


「愛してるよアンゼリカ。もう二度とこの手を離したりしないからね」



―――私はこの瞳から…この人から逃れられないのかもしれない。


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