凡人の私は最強異能力者の貴方に恋をする。
 翌日、ミランダはアインに公言したとおり、副学長の部屋へと足を運んでいた。
「失礼します」
 ノックを三回済ませると、ミランダは扉を開けて入室する。
「学年と名前を言いなさい」
「三年D組、ミランダ・アレクサンドラ・エミリーです」
 ミランダがそういうと、今まで怖い顔で机の上の書物と睨めっこしていたカール・メアリーが顔を上げる。
「これは、ミランダ様。一体私になんの御用ですか?」
 この学園では、たとえ生徒であっても王族関係者には敬語を使わなくてはならない。
「実は、ご相談があって参りましたの」
 ミランダはそういうと慣れた様子で、机の前に置かれた大きなソファに腰掛ける。
「ご相談ですか…」
 カールも本を閉じると、ミランダと向き合おうようにして小さな木の椅子に腰かけた。
「今回のダンスパーティーの組み分けについてなんだけど、もう一度組みなおせないのかしら?」
 ミランダは、懐からダンスパーティーの招待状を取り出すと机の上に放り投げた。
「申し訳ありません、我々も存じてはおりましたが…」
「あら、知っていたなら話は早いわ。私とナハトをペアにしてもらえるかしら?」
「実は、それができないんです…」
 カールは招待状を手に取ると、申し訳なさそうに眉を下げる。
「できないですって?どういうこと?」
「実は、何度システムにかけても同じ結果になってしまうんです…」
「どういうこと?」
 何故、同じ結果になるのか理解できないミランダは少し不服そうな表情でカールに問い詰める。
「それって、システムのエラーかなんかじゃなくて?」
「それがいまいち理由が判明しないんです…」
 カールは困った様に弁解する。
「何よそれ、随分と適当なのね。悪いけどこの組み分けは納得いかないわ。中にもいるでしょう?納得のいかない生徒が」
「…いえ、それが昨年に比べて全くと言っていいほど、そういった文句は出ておりません」
 まさかの意見にミランダは顔を顰める。
「う、嘘よ…、だって王族が下級市民とダンスだなんて…」
「それが、意外と皆さん乗り気でして。あのナハト王子も地球人の生徒とペアになれた事をとても喜んでおられるそうです」
「は?」
 突然、明るみになった事実にミランダは呆気に取られる。
「ちょっとまって!今のどういうこと?ナハトが旧人類の女とペアだとでもいうの?」
「え、ええ…、確かお名前は斎藤カナさんと…」
「冗談じゃないわ!なんでナハトの相手が旧人類の女なのよ!ナハトは第八銀河系団を統べる惑星アルマの王子よ?!現にこの地球の支配者でもあるのよ?ナハトのお父様がそんなことを聞いたら説教では済まされないわ!」
 ミランダは息を荒げてカールに反論する。
「で、ですが…、学園内でのダンスパーティですし…、ミランダ様はナハト様の正式なご婚約者ですから、特に問題は…」
「問題だらけだわ!」
 ミランダの怒りにカールは冷や汗を拭く。とても教師と生徒という図には見えない。
「学長はなんとおっしゃってるの?」
「アレン様は、それは面白いこともあるものだと、楽しそうにしておられました」
「まあ!そんなんだから未だに学園の目的が達成されないのよ!」
 ミランダは鬱陶しそうに髪をかき上げる。
「まあ、いいわ。要するに貴方達教師には無理ってことね」
「ミランダ様?」
 ミランダは立ち上がると、スタスタと扉の方へと歩いていく。
「お忙しいところ失礼したわね、来期はこの学園で偉そうにできなくなってしまうのが残念だわ」
「な、何を!」
「貴方は来期でクビよ、そうお父様にお願いしておくわ」
ミランダは意地悪そうに微笑むと「それでは、ごきげんよう」と言って副学長室を後にした。
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