凡人の私は最強異能力者の貴方に恋をする。
秘密の箱庭
「よし、いったん休憩だ」
 ナハトの合図にカナはその場にへたり込む。だいぶステップを踏めるようにはなったがまだ、基本中の基本しか覚えられていないことに少しの不安を覚える。
「ほらよ」
 今ではすっかり、ナハトのミスティリオにも動じなくなったカナは飛んできたペットボトルを右手で受け取る。
「だいぶステップが安定してきたな」
「ええ、お陰様で…」
 カナはここまでの、鬼のような猛特訓を思い出す。
「あとは恥じらいを捨てるだけだな」
「恥じらいですか…」
 ナハトの言葉にカナは小首をかしげる。
「お前、俺と踊ってるとき視線が泳ぎすぎなんだよ」
「そ、そんなの仕方ないじゃないですか!」
 ただでさえ、顔がいいのだ。あんな近距離でずっと見つめあえるほどカナの心臓は強くはない。
「そもそも、ナハトさんはよく人の顔じっと見てられますね!」
 ダンスの最中、何故かナハトは恥ずかしげもなくカナの顔をずっと見つめている。
「…それがマナーだろ。お前はキョロキョロと挙動不審な男と踊りたいのか?」
「そうじゃないけど…」
「なら、目を逸らすな」
「命令ですか…」
 最近、思ったことだがナハトは王子という割には意外と子供っぽいところがある。
「ナハトさんって本当に王子様なんですか?」
 何気ないカナの質問に、水分補給をしていたナハトは盛大にむせ返る。
「何を…、今更…」
「だって、この学園に居る事自体変というか…、本当の王族関係者なら他にもっと学校あったはずだと思うんですけど…」
 王族なら、こんな旧人類でも入れる様な学校は選ばないはずである。
「嫌なんだよ、王族ばっかの学校…」
 カナの疑問にナハトは呟く。
「何でですか?」
「つまんねぇだろ…」
つまらないの一言で学校を自由に選べるナハトにカナは顔を顰めた。
「そーですか、羨ましい限りですね、王子様は」
「んだよ…、文句があるなら言え」
「別に?」
 最近は、こんなやり取りばかりで本当に彼が身分の高い人であるということを忘れそうになってしまう。
「言えよ…聞いてやるから」
「無いってば」
「無いわけ無いだろ…」
「王子様はそんなに私の考えてる事が気になるんですか?」
「……」
 そうやって、ナハトを揶揄うとカナはクスクスと微笑む。彼が同じ旧人類だったならどれほどよかった事だろう。カナは内心そんな事を思った。
 相変わらず笑いが収まらない様子のカナに、ナハトは恥ずかしそうにそっぽを向く。そして、何を思ったのか、
「じゃあ、俺が本当の王子かどうか見学にくるか?」
と言ってカナの腕を引っ張った。
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