凡人の私は最強異能力者の貴方に恋をする。
ペア解消
 結局、あれからドレスを見繕うことなく二人は解散した。帰り際、使用人のマリは心配そうにカナの背中を撫でたが、夫のイービーに止められた。そして、帰りの車中でナハトに「ダンスの稽古はもう無理にくる必要はない」と言われてしまった。
 カナは机に突っ伏すと盛大にため息を吐く。今度こそやってしまった。今思い返せばあんなのただの八つ当たりでしかない。きっとナハトを不快な思いにさせたに違いない。
「あら、猿が伸びてますわ」
 ミラが机のわきを通り過ぎるたびに暴言を吐いていく。しかし、今はそんなことどうでもいい。そんなことより、今日の昼をどこで食べようかと頭を悩ませる。いつもの図書室は、下手するとナハトに遭遇してしまう危険性がある。かといってこの教室を利用するのはあまり賢明な判断とは言えない。
 一人教室の隅で頭を悩ませていると、ふと背後から自分の名前を呼ぶ声が響いた。
「カナさんはいるかしら」
 その透き通るような声にクラス中の生徒が、一点を見つめて静まり返る。カナも慌てて声のする方へと振り向くと、そこには見目麗しい女子生徒が教室の中を覗き込んでいた。
「もう一度聞くわ、この中に斎藤カナさんはいらっしゃるかしら?」
 美しい女生徒は再度教室の中を見渡す。しかし、カナは何故かその応答に答えてはいけないような気がした。
「ごきげんよう、ミランダお姉さま。カナさんでしたらそちらで伸びておりますわ」
 いつまでも返答しないカナにしびれを切らしたのか、ミラがカナの方を指さして答える。
「あら、ありがとう」
 ミラの言葉にミランダは微笑むと、カナの席へと近づいた。
「ごきげんよう。斎藤カナさん」
 何か罵声でも浴びせられるのだろうかと身構えていたカナだったが、意外にも丁寧に挨拶をするミランダにカナは小さく「ごきげんよう」と返答する。
「私はミランダ・アレクサンドラ・エミリーと申します」
 カナはその名前に彼女も王族であることを認識する。
「この学園に、地球人の方が入学されたと聞いて、ぜひ色々お話を着てみたいと飛んできましたの」
 ミランダはそういうと、その美しい唇の口角を上げる。
「よろしかったら私と昼食でもどうかしら?」
 ミランダの言葉にカナは驚く。まさか、お昼のお誘いを受けるとは思わなかった。
「もちろん、無理にとは言いませんわ。ご都合がよろしければですけど…」
 ナハトと違いあまり強引ではないミランダの誘いに、カナは一瞬頭を悩ませたが、この状況で王族の誘いを断れるほど今のカナは無知ではなかった。
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