凡人の私は最強異能力者の貴方に恋をする。

　ミランダに連れてこられたのは学内の一角に佇む、綺麗な室内庭園であった。
「ここに来るのは初めてかしら？」
　ミランダは優しくカナに微笑む。
「ええ、こんな綺麗で静かな場所があるなんて知りませんでした…」
　カナは驚いたように天井を見上げる。
「まあ、知らなくて当然だわ…、ここは一般開放されてませんから」
　ミランダは一つのベンチにたどり着くと、隣に座るようカナに指示をした。カナは恐る恐るミランダの隣へと腰掛ける。
「そんなに固くならなくても、ここには私と貴方しかおりませんわ。楽にしてくれて結構よ」
　ミランダはそういうとクスクスと笑う。まるで天使のような美しさにカナは少し頬を染めると小さく「すみません」と謝罪した。
「カナさんはいつも教室でお昼を召し上がっていらっしゃるの？」
「いえ…、いつもは図書室で食べてます」
　なんとなく、ナハトの名前を口にするのは、やめておこうと思った。
「あら、お一人で？」
「…ええ、まあ」
　カナは頷く。
「まあ、そうでしたの。早くお友達ができると良いですわね」
　ミランダの言葉にカナは少しの違和感を感じた。
「あの、ミランダさんはどうして私と昼食なんか…」
「実は貴方にお伝えしておきたいことがありましたの」
　ミランダは、カナの言葉を遮るようにして口を開いた。どうやら親睦を深める気ではなさそうである。
「貴方、ナハトをご存じ？」
　ミランダの問いかけにカナは持っていたおにぎりを落としそうになる。
「ええ、まあ」
「私、ナハトの事が昔から好きなの」
　ミランダはどこかいたずらっ子の様な表情でカナを見つめる。
「そうなんですか…、でもどうしてそれを私に？」
　カナは努めて平然を装う。
「どうしてですって？面白いことをおっしゃるのね」
　ミランダはカナへと近づくとその綺麗な唇をカナの耳元へと近づけた。
「ナハトとダンスパーティーのペアを解消なさい」
　今までとは違った低い声色にカナは肩を振るわす。
「さもなくば、貴方はもう二度とこの学園にはいられないわ。この意味わかるわよね？」
　カナはその言葉に恐怖する。高校を卒業できないものが行くべき道は、この星では死を意味する。特にカナのようなレブルは仕事に制限があり、そのほとんどが奴隷のような仕事ばかりである。現にカナの父親は未だに自宅に帰ることが許されていない。
「…わかりました」
　カナは小さく呟いた。そう。この学園はそういう場所なのだ。人間を辞めたあの日からカナには決定権など存在してはいない。ミランダはカナの返答に満足そうに微笑むと、「分かればいいのよ」といって顔を離した。
「ちなみに、私はナハトの許嫁でもあるのよ」
「え？」
　カナは突然知らされた事実に目を見開く。そして、この時自分がいかに自惚れていたのかを思い知らされた。