凡人の私は最強異能力者の貴方に恋をする。
ダンスパーティー前夜
 カナからペアの解消をお願いされてから、一か月後。ナハトは明日に控えたダンスパーティーについて思いを巡らせていた。あれから何度か図書室を訪れたものの、カナは一度も現れなかった。
 色々、不味かっただろうかー。
 ナハトは声を震わしながら、わざわざ三年のエリアまで来たカナの姿を思い出す。突然の出来事に思わず、いつもの態度で接してしまった自分を殴りたいと思ったのは言うまでも無い。しかし、大勢の見物客がいたあの場ではああすることしか出来なかった。
 ナハトは自室のベッドに横になると静かにため息を吐く。正直、ダンスパーティーなどどうでもいい。ただ、彼女ともう一度他愛もない話がしたかった。
 ナハトは暫く天井を見つめると、握りしめた右手をあげる。ゆっくりと手を開くと赤い薔薇の花びらがハラハラと顔へと散っていった。
「明日は確か、午後集合だったな…」
 歓迎会ということもあり、全学年の授業がなくなる明日は、午後から大ホールと言われる場所に集まることになっている。それも、毎年男子学生が女子学生の家へと向かいホールまでエスコートする決まりになっている。
 ナハトは寝返りを打つと、つい先ほどカナへと送信したメッセージを確認する。しかし、そのメッセージにもちろん返信はない。
「……」
 やはり、あの接し方は良くなかったかもしれない。一度謝罪に行くべきだったろうか?しかし、新人類なんて嫌いだと言われてしまった手前、どうすることもできなかった。悶々と頭の中で今後のことについて考えを巡らしていると、突然扉がノックする音が響いた。
「誰だ」
 ナハトは体を起こして扉の方を見つめる。すると、そこからひょっこりとミランダが顔を覗かせた。
「少しいいかしら?」
「まだ帰ってなかったのか…」
 今日はミランダの父親とナハトの父親が意見交換を交わす日と定められていた。今更であるが、ナハトの父もミランダの父もこの星の政治に口出しすることができる立場にいる。
「お父様ったら先ほどまで、意見交換されてましたのよ」
 ミランダは慣れた様子で室内に入ると、恥ずかしげもなくナハトが横になるベッドへと腰を掛けた。
「それより、貴方が本邸にいるなんて珍しいこともあるのね」
「親父の命令だ。なんでも卒業後のことについて話があるんだと」
 ナハトは鬱陶しそうに答える。いつもならこんな居心地の悪い場所には帰らないのだが、今日は仕方なく呼び出されてしまったのだ。
「あら、それなら私も是非お話に混ざりたいわ」
「なんでだよ…」
 ナハトは不愉快そうに目頭を抑える。
「だって、私は貴方の許嫁。高校卒業と共に貴方の妻になる女ですもの」
 ミランダは嬉しそうにナハトの腕に絡みつく。
「ふざけるな…、俺は了解した記憶はないが?」
「貴方のお父様は了解なさったわ」
「所詮、父上の戯言…、本気にするな」
「戯言なんかじゃないわ、決定事項よ」
 ミランダは妖艶に微笑むと、ナハトの腕に胸を押し付ける。
「離れろ、ミランダ。お前はまだ嫁入り前だろ」
「あら、まだそんな古い習わしを信じていらっしゃるの?」
「当然だ。俺を誰だと思ってる」
 ナハトはそういうと、ミランダを押し返しベッドから立ち上がった。
「悪いが、時間だ。お前も明日はエスコートが来るんだろ?さっさと帰って寝てろ」
「まさか、本気であの女のエスコートに行く気?」
 ミランダは慌てて、ナハトの腕をつかむ。
「当然だ」
 ナハトは掴まれた腕を振り払う。
「そんなの貴方のお父様だって許さないわ」
「残念だが、俺の親父は学校の行事には興味がないんでな…」
 ナハトはそういうと右手をあげて振り返ることなく、早々に部屋を出て行った。
 残されたミランダは不愉快そうに顔をしかめる。そして、誰もいないはずの窓辺に視線を移すと、静かに声をかけた。

「仕方ないわ、やっぱり計画は続行よ…」 
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