凡人の私は最強異能力者の貴方に恋をする。
終幕
 ナハトは倉庫の外へカナを連れ出すと、心配そうにカナの顔を覗き込んだ。
「大丈夫か…?」
 どうやら、色々されたことに対しての質問らしい。カナはその質問に小さく頷く。
「そうか、来るのが遅くなってしまって、すまなかった…」
「いえ、歓迎会にはまだ早いですし…」
 ちぐはぐな返答をするカナに、ナハトは苦笑する。
「そうじゃない…、助けに行くのが遅くなってしまって、すまなかったと言っているんだ」
 その言葉にカナは首を横に振る。
「あれは事故ですし…、さすがにナハトさんでも予測するのは無理だったと思います」
 いくら何でも、そこまでできるとは思っていない。
「いや、あいつらの事について大方予想はついていた。恐らくミランダの取り巻きだった奴らだろう」
 ナハトの言葉にカナは目を丸くする。
「どうして、ミランダンさんの取り巻きが…」
「大方ミランダに命令されたんだろうな」
 あいつは昔からああいう女だ、とナハトは補足すると地べたに座り込んだ。
「でも、どうしてそんなことわかったんですか?」
 カナはいまいち理解できないといった表情で尋ねる。
「昨日、俺の部屋にミランダが来てな…、窓の外に妙な気配を感じてたんだ」
 今思えばその時に始末しておけば、こんなことにはならなかったのかもしれない。
「本当は、お前を迎えに行く前に絞めるつもりだったが、意外にも行動が早くてな…」
 ナハトは申し訳なさそうに眉を下げた。
「そうだったんですか…」
 カナは気が抜けた様にその場に座り込む。
「ナハトさん」
「ん?」
「ミランダさんと一緒に踊ってあげたらいかがですか?」
「…」
「きっとここまでするくらい、ミランダさんはナハトさんの事が好きなんですよ」
カナはこの前ミランダと食事をした時のことを思い出す。
「だから、私の事は気にせず…」
「断る」
「え…」
 断固としてミランダとペアになる事を拒むナハトに、カナは困ったようにため息を吐く。
「あの…、ずっと思ってたんですけど…、どうしてそこまでして私と踊りたいんですか?」
 カナはずっと疑問だったことを尋ねる。本来であれば自分のような旧人類の事など、どうでもいいはずなのに、何故かいつも気にかけてくれるナハトにカナは複雑な思いを抱いていた。
「別に、私なんかと踊らなくったって…」
 絞りだすように、紡がれた言葉はカナの本音だった。何もこんな自分に構う必要などないのだ。放っておけばよいのだ。それなのに何故。
「…興味が湧いた」
 唐突にナハトが呟いた。その言葉にカナは呆れた様に笑う。そんなのまるで実験対象みたいではないか。
 堪らず涙が溢れ出た。いっそのこと最初からそう言ってくれたらどれほど救われた事か。

 しかし、言葉はそこで終わりでは無かった。
 
「…だけの筈だったんだがな」
 そう呟くと、ナハトは突然隣に座りこむカナの体を抱き寄せた。そして、いつかのお返しとばかりに、その小さな耳に唇を寄せる。

「…どうやら、俺はお前の事が好きらしい」

 突然耳元で囁かれた愛の告白にカナの表情が真っ赤に染まる。
「…お前は、俺が嫌いか?」
 ナハトはカナの耳元から唇を離す事なく尋ねる。
「別に、嫌いじゃ…」
「なら教えてくれ…、お前の本当の気持ちを」
 早急に返事を求めてくる王子様にカナの頭は混乱する。確かに彼の思いは嬉しいが、立場的な問題が頭の中を駆け巡ると同時に、耳元から聞こえるナハトの吐息がカナの思考を乱した。
「っ私…、旧人類です」
「知っている」
「っ、なんの才能もないし…」
「あぁ、そうだな」
「ミスティリオだって使えませんッ…」
「承知の上だ」
 執着に耳元で囁くナハトに、カナは身を捩る
「ッ…、ナハトさん!」
 カナはそこまで言うと諦めたようにナハトの名を叫ぶ。ここまでペアを解消しなかった相手だ。もうここは素直に認めるしかないようだ。

「どうした?」
「ッ私も…、貴方が好きです…」

すると、ナハトはカナの顎に手を添えた。カナはこの瞬間、もう後戻り出来ないことを胸の内でひっそりと悟る。

「その言葉、変更は認めない。わかったな…」

「はい…」

ナハトはその言葉に満足そうに微笑むと、カナの小さな唇に口付けた。
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