凡人の私は最強異能力者の貴方に恋をする。
組み分けダンスパーティー
 ナハトとの出会いから、数週間後、クラスの仲良しグループがだいぶ固まり始める中、カナは相変わらず一人隅の席で、顔を伏せていた。あれからナハトとは一度も顔を合わせていない。寂しいとまではいかないが、あのぶっきらぼうな優しさに触れたいと感じている私は、もうだいぶこの学園に侵食されているのかもしれない。
 カナは目立たぬように小さくため息を吐く。中学の頃は早く授業が終わってほしいと願っていたが、今は一刻も早くこの休憩時間が終わってほしい。
「はい、皆さん!ホームルーム始めるわよ」
 ようやく教師の女が姿を現すと、騒がしかった教室の中が一斉に静かになる。
「今日は来月開催されるダンスパーティのチーム決めをしたいと思います」
 教師はそういうと、指をパチンと鳴らして、全員の机の前にホログラム映像を映し出した。どういう原理かわからないが、ミスティリオを使い天井裏に設置されている出力機のスイッチをオンオフできるらしい。
「毎年、我が学園では新入生歓迎会も兼ねてダンスパーティを開催しています」
 その言葉に、クラスの一部の女子がざわつき始める。
「先生!これって、ペア自由なんですか?」
 一人の陽キャらしい学生が尋ねた。
「こら、静かに。ちゃんと今から説明します」
 教師はそういうと、一つのURLを表示した。
「そこのサイトへ飛んで、名前を入力して下さい。そこから全学年の男女がランダムにマッチングされます」
「先生!それって、もしかしたら王族関係者ともペアが組めるってことですよね!」
 先ほど、叱られた生徒が興奮気味に尋ねた。
「ええ、もちろんです。ですので皆さんにはこれから、ホームルームの時間を利用してダンスレッスンを行います」
 教師の言葉に一部の男子生徒からブーイングが上がる。
「静かに、練習への参加は絶対です。男性の皆さんも女性のエスコート方法を学んでくださいね」
 カナはぼんやりと大変そうだなと、適当に名前を入力した。きっと今回も旧人類である自分は見学に違いない。カナはある意味良かったと内心安堵する。ダンスパーティーなんて言ったこともなければダンスの経験もない。ここは静かに壁際で見学するのが一番自分にとっては苦痛が少なくて済む。
「ちなみに、このペアが決まるのはいつ頃ですか?」
 一人の男子生徒が尋ねた。
「明日にはペアが決まります。皆さんには招待状と一緒に明日のホームルーム時にお渡しします。もちろん、ペアの変更は受け付けません」
 教師の一言に再び教室からブーイングがあがる。
「当然でしょう。そうでもしないと旧人類の斎藤さんが、あぶれてしまいますからね」
「え?」
 教師の言葉に、カナは豆鉄砲をくらった鳩のように目を丸くする。
 「うわ、だりぃ。猿と一緒にダンスとかごめんだわ」
 「ちょっと、男子。本人の前で失礼よ」
 一ミリも失礼とは思っていない意地悪な発言にカナは、顔を伏せる。もうこの際、誰とマッチングしても構わない。どっちにしたって、からかわれるのは目に見えている。
 教室のチャイムが鳴る。
「では、今日は以上です。お疲れ様でした」
 教師はそういうと足早に教室を後にした。
 クラス中がダンスパーティーの組み分けに浮足立つ中、カナの心持は穏やかなものではなかった。また一つ憂鬱な行事が増えた事にカナは再びため息を吐く。こういう日は帰って唯に電話をかけるのが一番である。
 後ろの扉から、隠れるように帰ろうとすると、「ねえ」と運悪く誰かに呼び止められた。
 恐る恐る振り向くと、そこにはいじめっ子軍団(カナが勝手に名付けた)が何か企んだような表情でこちらに近づいてくる。
「な、何?」
「あんたさ、まさか本気でダンスパーティーに出席する気じゃないでしょうね?」
 いじめっ子軍団のリーダーであるミラ・グレイスが尋ねる。
「だって、強制参加だし…」
「はぁ?それなら休みなさいよ。あんたみたいなのがナハト様とペアを組もうものなら、私許さないわよ」
 ミラはわかりやすく嫌悪感をあらわにすると、左右に立っていたミラの取り巻きも同じ様に口を開いた。
「ミラ、心配しなくてもこんなやつ王族関係者とはヒットしないわよ」
「そーよ、旧人類なんだから先生方もお許しにならないわ」
 どうやら、彼女達の話によればナハト・ジークという男は王族関係者であるらしい。眉目秀麗で成績優秀、ミスティリオの使い手ということもあり学内ではかなり有名なようだ。
「わかった。もしその人とペアになったら学校を休むわ。それでいいかしら?」
 カナはそう言うと「失礼します」と小さく頭を下げてその場を離れた。
 これ以上、面倒ごとに巻き込まれるのはごめんだ。
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