凡人の私は最強異能力者の貴方に恋をする。
招待状を受け取った翌日、カナは昼食を食べに人気の少ない図書室へと身を寄せていた。最近は一人飯もだいぶ慣れてきたカナであったが、今はそんなことよりもこのダンスパーティーをどう欠席するかを考えなくてはならない。
風邪で休むこと自体問題はないが、さすがにナハトに何も伝えぬまま休むのは迷惑が掛かってしまう。それならば事前に状況説明をする必要があると考えたカナは、密かにナハトと接触する機会を伺っていた。しかし、上級生であるナハトと接触するにはかなりの難所を潜り抜ける必要がある。
ただでさえ身分が違いすぎるうえ、学年も立場も違う相手とコンタクトをとるのは簡単な事ではない。頭では理解していたつもりだが、こんなにも大変だとは思っても見なかった。
カナは、サンドイッチをほおばりながら、小さくため息を吐く。いっそのこと手紙でも書こうかと考えたが、どうせ意地悪な生徒によって破り捨てられてしまうに違いない。
あれや、これやと方法を考えてはいるが一向に良い考えは生まれてこない。こんな時、友人がいればと思うと胸の奥がぐっと苦しくなった。
「参ったな…」
「どうした?」
「いや、どうやってナハトさんに伝えたらいいか……」
突然、返された言葉にカナは慌てて上を見上げる。そこには、今この瞬間最も会いたいようで、会いたくない相手がジュースの紙パックを片手に立っていた。いや、立っていたというより天井にぶら下がっている?といった方が正しいのかもしれない。
「な、ななな……」
カナはそのあまりにも人外な立ち位置に、驚く。
「落ち着けよ…」
「いい、いや、だって、天井に…、なんで天井に?」
自分でも言葉のチョイスがおかしいとは思うが、天井にぶら下がっている男を前にまともな台詞が見つからない。
「?…、あぁこれか…」
ようやくカナが何に驚いているのか理解したナハトは、何やら呪文を唱えて地面へと華麗に着地した。
「重力操作のミスティリオだよ、ってお前まだ実習受けてなかったな…」
ナハトは少し申し訳なさそうに、そう言うとカナの隣へと腰を掛ける。突然、近距離に来た男にカナは慌てて距離をとる。
「ななな、ナハトさん、どどど、どうして?」
コミュ障を全力で発動したカナはどもりながら、ナハトに尋ねる。
「俺に何か言いたいげな様子だったんでな…」
ナハトは少し呆れた様子で持っていた紙パックジュースにストローを刺した。
「いや、だからって」
突然天井から現れたら、驚くだろ。
カナは内心突っ込みをいれると、自分を落ち着かせるために一つ深呼吸をした。
「で、俺に何が言いたかったんだ?」
ニヒルな笑みを浮かべて、わざと距離を詰めてくるナハトに、カナの心臓が跳ね上がる。
「えっと、その…」
カナは乱れた髪を耳にかけると、まずは名前について確認することにした。
「な、ナハトさんって実はナハト・ライハン・ジークっていうお名前なんでしょうか?」
「どうして?」
「いや、どうしてって…、この前はナハト・ジークとおっしゃっていたので…」
カナは困ったように答える。
「そうじゃなくて、どうして俺のフルネームが分かったの?」
ナハトはカナに鋭い視線を向ける。
「じ、実はダンスパーティーのペア決めで、そのように名前が書かれていて…」
カナは何故か怒られた子供の用に語尾を濁らせた。いっそのことドッキリだったらどれほど嬉しいことか。
「そうか…、やはり間違いではなさそうだな」
ナハトは一人納得した様子で頷くと自分の招待状をカナへ見せた。
「実は俺の招待状にも、お前の名前が書かれていてな、冗談かと思って確認しに来たんだ。ちなみにライハンは王族内のみで使われる名だ…普段は使わないようにしている」
どうやら一般人のカナに配慮してライハンという名は伏せていたようだ。
「そうだったんですか…、すみません。」
「何故謝る?」
「何故って…、それは…」
口ごもるカナに、ナハトは目を細めた。
「お前が旧人類だからか?」
初めてナハトの口からでた差別用語に、カナは表情を曇らせる。
「それ以外に理由がありますか…?」
カナはそっぽを向いて答える。
「…実は私、このダンスパーティーを欠席しようと考えています。理由は二つあります。一つ目はナハトさんの仰る通り私が旧人類だから。二つ目はクラスメイトと約束をしてしまったからです。なので、失礼を承知でお伝えしますが、私貴方と踊れません。ごめんなさい」
カナはそういうと、ナハトに向き直って深く頭を下げた。
「貴方ならまだペアを組み直すことくらい…」
「悪いが、その願いを聞き入れるわけにはいかないな」
意外な返答にカナは頭をあげる。
「え、でも…」
「地球人を知る良い機会だ。何、安心しろ。お前のことは俺が守ってやる」
ナハトはそういうと、隣に座るカナの頭をごく自然に撫でた。
「?!?!」
突然のことにカナは、勢いよく体制を崩す。しかし、ナハトにつかまれた腕によって間一髪のところで転倒を免れる。
「お前、驚きすぎ、ちょっとは落ち着けよ」
クスクスと笑うナハトにカナの心音が激しくなる。この状況でどう落ち着けというのか。
「まあ、まずはダンスの稽古からだな。安心しろ、俺が直々に稽古してやる」
「は?」
ナハトは嬉しそうに、紙パックのジュースを飲み干すと指につけられたスマートリングを差し出した。
「ほら、連絡先交換しとくぞ。お前が慌てないようにな」
カナは差し出されたリングに自分のリングを重ねる。これで連絡先の交換は完了であるが問題はそこではない。
「で、でも…、稽古ってどうやって?私ホームルームの時間でさえダンスの練習に参加させてもらえないんですよ?」
カナは困ったように尋ねる。
「んなの、知ってる。だから昼休み使って練習すんだって」
ナハトはどこか嬉しそうに、飲み干した紙パックをゴミ箱へと投げ入れた。
「で、でも…、そんなのバレたら」
イジメどころの騒ぎではない。
「でも、でも、煩ぇな。俺が大丈夫だっていってんだろ」
「あ、貴方も下手したらイジメの対象に……」
そこまでいって、突然カナの視点が反転した。
「お前さ、俺が何者か本当に知らねぇの?」
突然床へと組みしだかれたカナは、青ざめた表情で頷く。力を入れても全くびくともしないナハトに少しの恐怖を感じる。
「じゃあ、教えてやる。俺は第八銀河系団を統べる惑星アルマの十三代王子、ナハト・ライハン・ジークだ」
「……第八銀河?、惑星アルマ?」
「そうだ。そして、俺のミスティリオ階級はマスター。この意味わかるか?」
カナはブンブンと首を横に振る。
「お前、この学園に入学した割には新人類の事なんもわかってねぇんだな…」
ナハトは少し呆れた様子で答えると、仕方なくカナを起こした。
「要するに、俺より強い奴は滅多にいねぇってこと」
頭をかきながら、煩わしそうに説明するナハトにカナは首をかしげる。
「えっと…、要するにナハトさんはとある星の王子様で、階級がすごい上で強いってことですか?」
「まあ、今はそういうことでいい…」
小学生並みの説明にナハトは諦めたように頷く。
「で、でも、それならなおさら一緒に踊るのは…」
「そんなに、俺と踊りたくないの?」
「いえ!そういうわけではなくて…」
いまいち、心を決めかねているカナにナハトは分かりやすくため息を吐くと、何を思ったのかカナをその場に引っ張りあげる。そして…、
「我が親愛なるお姫様。お願い申し上げます。どうか、この私と一曲踊ってはいただけないでしょうか?さすればこのライハン・ジーク、貴方の事をお守りすると誓いましょう」
そういって、本当の王子様のようにカナの足元へとひざまずいた。
風邪で休むこと自体問題はないが、さすがにナハトに何も伝えぬまま休むのは迷惑が掛かってしまう。それならば事前に状況説明をする必要があると考えたカナは、密かにナハトと接触する機会を伺っていた。しかし、上級生であるナハトと接触するにはかなりの難所を潜り抜ける必要がある。
ただでさえ身分が違いすぎるうえ、学年も立場も違う相手とコンタクトをとるのは簡単な事ではない。頭では理解していたつもりだが、こんなにも大変だとは思っても見なかった。
カナは、サンドイッチをほおばりながら、小さくため息を吐く。いっそのこと手紙でも書こうかと考えたが、どうせ意地悪な生徒によって破り捨てられてしまうに違いない。
あれや、これやと方法を考えてはいるが一向に良い考えは生まれてこない。こんな時、友人がいればと思うと胸の奥がぐっと苦しくなった。
「参ったな…」
「どうした?」
「いや、どうやってナハトさんに伝えたらいいか……」
突然、返された言葉にカナは慌てて上を見上げる。そこには、今この瞬間最も会いたいようで、会いたくない相手がジュースの紙パックを片手に立っていた。いや、立っていたというより天井にぶら下がっている?といった方が正しいのかもしれない。
「な、ななな……」
カナはそのあまりにも人外な立ち位置に、驚く。
「落ち着けよ…」
「いい、いや、だって、天井に…、なんで天井に?」
自分でも言葉のチョイスがおかしいとは思うが、天井にぶら下がっている男を前にまともな台詞が見つからない。
「?…、あぁこれか…」
ようやくカナが何に驚いているのか理解したナハトは、何やら呪文を唱えて地面へと華麗に着地した。
「重力操作のミスティリオだよ、ってお前まだ実習受けてなかったな…」
ナハトは少し申し訳なさそうに、そう言うとカナの隣へと腰を掛ける。突然、近距離に来た男にカナは慌てて距離をとる。
「ななな、ナハトさん、どどど、どうして?」
コミュ障を全力で発動したカナはどもりながら、ナハトに尋ねる。
「俺に何か言いたいげな様子だったんでな…」
ナハトは少し呆れた様子で持っていた紙パックジュースにストローを刺した。
「いや、だからって」
突然天井から現れたら、驚くだろ。
カナは内心突っ込みをいれると、自分を落ち着かせるために一つ深呼吸をした。
「で、俺に何が言いたかったんだ?」
ニヒルな笑みを浮かべて、わざと距離を詰めてくるナハトに、カナの心臓が跳ね上がる。
「えっと、その…」
カナは乱れた髪を耳にかけると、まずは名前について確認することにした。
「な、ナハトさんって実はナハト・ライハン・ジークっていうお名前なんでしょうか?」
「どうして?」
「いや、どうしてって…、この前はナハト・ジークとおっしゃっていたので…」
カナは困ったように答える。
「そうじゃなくて、どうして俺のフルネームが分かったの?」
ナハトはカナに鋭い視線を向ける。
「じ、実はダンスパーティーのペア決めで、そのように名前が書かれていて…」
カナは何故か怒られた子供の用に語尾を濁らせた。いっそのことドッキリだったらどれほど嬉しいことか。
「そうか…、やはり間違いではなさそうだな」
ナハトは一人納得した様子で頷くと自分の招待状をカナへ見せた。
「実は俺の招待状にも、お前の名前が書かれていてな、冗談かと思って確認しに来たんだ。ちなみにライハンは王族内のみで使われる名だ…普段は使わないようにしている」
どうやら一般人のカナに配慮してライハンという名は伏せていたようだ。
「そうだったんですか…、すみません。」
「何故謝る?」
「何故って…、それは…」
口ごもるカナに、ナハトは目を細めた。
「お前が旧人類だからか?」
初めてナハトの口からでた差別用語に、カナは表情を曇らせる。
「それ以外に理由がありますか…?」
カナはそっぽを向いて答える。
「…実は私、このダンスパーティーを欠席しようと考えています。理由は二つあります。一つ目はナハトさんの仰る通り私が旧人類だから。二つ目はクラスメイトと約束をしてしまったからです。なので、失礼を承知でお伝えしますが、私貴方と踊れません。ごめんなさい」
カナはそういうと、ナハトに向き直って深く頭を下げた。
「貴方ならまだペアを組み直すことくらい…」
「悪いが、その願いを聞き入れるわけにはいかないな」
意外な返答にカナは頭をあげる。
「え、でも…」
「地球人を知る良い機会だ。何、安心しろ。お前のことは俺が守ってやる」
ナハトはそういうと、隣に座るカナの頭をごく自然に撫でた。
「?!?!」
突然のことにカナは、勢いよく体制を崩す。しかし、ナハトにつかまれた腕によって間一髪のところで転倒を免れる。
「お前、驚きすぎ、ちょっとは落ち着けよ」
クスクスと笑うナハトにカナの心音が激しくなる。この状況でどう落ち着けというのか。
「まあ、まずはダンスの稽古からだな。安心しろ、俺が直々に稽古してやる」
「は?」
ナハトは嬉しそうに、紙パックのジュースを飲み干すと指につけられたスマートリングを差し出した。
「ほら、連絡先交換しとくぞ。お前が慌てないようにな」
カナは差し出されたリングに自分のリングを重ねる。これで連絡先の交換は完了であるが問題はそこではない。
「で、でも…、稽古ってどうやって?私ホームルームの時間でさえダンスの練習に参加させてもらえないんですよ?」
カナは困ったように尋ねる。
「んなの、知ってる。だから昼休み使って練習すんだって」
ナハトはどこか嬉しそうに、飲み干した紙パックをゴミ箱へと投げ入れた。
「で、でも…、そんなのバレたら」
イジメどころの騒ぎではない。
「でも、でも、煩ぇな。俺が大丈夫だっていってんだろ」
「あ、貴方も下手したらイジメの対象に……」
そこまでいって、突然カナの視点が反転した。
「お前さ、俺が何者か本当に知らねぇの?」
突然床へと組みしだかれたカナは、青ざめた表情で頷く。力を入れても全くびくともしないナハトに少しの恐怖を感じる。
「じゃあ、教えてやる。俺は第八銀河系団を統べる惑星アルマの十三代王子、ナハト・ライハン・ジークだ」
「……第八銀河?、惑星アルマ?」
「そうだ。そして、俺のミスティリオ階級はマスター。この意味わかるか?」
カナはブンブンと首を横に振る。
「お前、この学園に入学した割には新人類の事なんもわかってねぇんだな…」
ナハトは少し呆れた様子で答えると、仕方なくカナを起こした。
「要するに、俺より強い奴は滅多にいねぇってこと」
頭をかきながら、煩わしそうに説明するナハトにカナは首をかしげる。
「えっと…、要するにナハトさんはとある星の王子様で、階級がすごい上で強いってことですか?」
「まあ、今はそういうことでいい…」
小学生並みの説明にナハトは諦めたように頷く。
「で、でも、それならなおさら一緒に踊るのは…」
「そんなに、俺と踊りたくないの?」
「いえ!そういうわけではなくて…」
いまいち、心を決めかねているカナにナハトは分かりやすくため息を吐くと、何を思ったのかカナをその場に引っ張りあげる。そして…、
「我が親愛なるお姫様。お願い申し上げます。どうか、この私と一曲踊ってはいただけないでしょうか?さすればこのライハン・ジーク、貴方の事をお守りすると誓いましょう」
そういって、本当の王子様のようにカナの足元へとひざまずいた。