あなたが居なくなった後 ~シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました~
「筋肉は裏切らない」というよく聞くフレーズを口癖のように言っていた大輝は、前彼とは違って優香のことを裏切るようなことは一度も無かった。ただ、筋トレを優先して後回しにされることはしょっちゅうだったけれど……。
25歳の誕生日にプロポーズされ、その2年後にはマイホーム購入と妊娠、出産と慌ただしくも順調で、傍から見ても幸せな結婚生活を送っていた。仕事で出産には立ち会うことはできなかったが、初めての我が子を大きな手で抱き上げた時の、夫の潤んだ顔は忘れることはない。
「食べたい物とか買ってきて欲しい物があったら、ラインしといて」
じゃあ、行ってくるね、と優香が抱っこしている子供の頬を人差し指で突いてから、妻の頬には優しく口付けていく。リビングを出ていくスーツ姿の夫の背中へ、優香は「行ってらっしゃい」と声を掛ける。後ろ手を振る夫の様子は、いつもと何も変わらなかった。
夕方、二階のベランダから取り込んできたばかりの、まだホカホカと温かい洗濯物を畳んでいると、普段は静かな固定電話が鳴り出した。夫や友人からの連絡はほぼ携帯に掛かってくるから、家の電話が鳴るのは滅多にない。
呼び出し音に驚いて、「ふぇっ」と小さく声を上げ始める息子を急いで抱き上げる。
「はい。石橋です」
「あ、石橋大輝さんの奥様でいらっしゃいますか?」
聞き覚えのない、男性の声。少し慌てているようで、早口で一方的に話をし始める。背後に聞こえてくるのは、徐々に遠ざかっていく救急車のサイレンの音。ざわついた周囲に、何かあったんだと察するしかない。
「あの、私は石橋さんの同僚で金子と言います」
夫の勤める建設会社の同僚だと名乗った金子は、大輝が担当する建設現場で資材の落下事故が発生したと告げる。そして、夫が高さ5メートルから落ちてきた鉄材の真下にいて、たった今、救急搬送されたのだと。
その後、電話の向こうの金子が何を言っていたのかははっきりとは覚えていない。ただ、病院名をメモした紙を握りしめて、息子を抱きながら部屋着のままタクシーに飛び乗ったことは覚えている。
25歳の誕生日にプロポーズされ、その2年後にはマイホーム購入と妊娠、出産と慌ただしくも順調で、傍から見ても幸せな結婚生活を送っていた。仕事で出産には立ち会うことはできなかったが、初めての我が子を大きな手で抱き上げた時の、夫の潤んだ顔は忘れることはない。
「食べたい物とか買ってきて欲しい物があったら、ラインしといて」
じゃあ、行ってくるね、と優香が抱っこしている子供の頬を人差し指で突いてから、妻の頬には優しく口付けていく。リビングを出ていくスーツ姿の夫の背中へ、優香は「行ってらっしゃい」と声を掛ける。後ろ手を振る夫の様子は、いつもと何も変わらなかった。
夕方、二階のベランダから取り込んできたばかりの、まだホカホカと温かい洗濯物を畳んでいると、普段は静かな固定電話が鳴り出した。夫や友人からの連絡はほぼ携帯に掛かってくるから、家の電話が鳴るのは滅多にない。
呼び出し音に驚いて、「ふぇっ」と小さく声を上げ始める息子を急いで抱き上げる。
「はい。石橋です」
「あ、石橋大輝さんの奥様でいらっしゃいますか?」
聞き覚えのない、男性の声。少し慌てているようで、早口で一方的に話をし始める。背後に聞こえてくるのは、徐々に遠ざかっていく救急車のサイレンの音。ざわついた周囲に、何かあったんだと察するしかない。
「あの、私は石橋さんの同僚で金子と言います」
夫の勤める建設会社の同僚だと名乗った金子は、大輝が担当する建設現場で資材の落下事故が発生したと告げる。そして、夫が高さ5メートルから落ちてきた鉄材の真下にいて、たった今、救急搬送されたのだと。
その後、電話の向こうの金子が何を言っていたのかははっきりとは覚えていない。ただ、病院名をメモした紙を握りしめて、息子を抱きながら部屋着のままタクシーに飛び乗ったことは覚えている。