あなたが居なくなった後 ~シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました~
第十三話・公園
心地よい風が吹く、日曜日の公園。真新しい靴を履いて歩き回る陽太の後ろを、優香はバッグを抱えて追いかける。公園内には他にも親子連れが何組かいて、それぞれが子供の好きな遊びをさせていた。
「あ、荷物は俺が持つよ」
「ありがとう」
急に駆けだした息子の後ろを慌てて付いていこうとする優香の肩から、宏樹がひょいとバッグを取る。ずっしりと重い中身の大半が陽太の物で、外遊び用の玩具や着替え一式だ。
いつものように何だかんだと理由を付けて訪ねて来た宏樹が「そこの公園、今の時期ならどんぐりがいっぱい落ちてるよ」と言うので、天気も良いしと三人でお散歩がてら遊びに来ていた。
しかし、肝心のどんぐりには一切興味を示さず、陽太は歓声を上げながら遊具の間を走り抜け、砂場の前でその動きをぴたっと止めた。そして、その場で座り込んでから自分が履いている靴を引っ張り始める。
「え、裸足で遊ぶの?」
片足ずつを引っ張り脱ぐと、靴下もと優香の方に足を向けてくる。命じられるままに両方の足から靴下を回収して、砂場の隅に靴を揃えて置いた。陽太は躊躇いなく裸足のまま、砂の中へズンズンと歩いていく。
「保育園のは裸足で入るようになってるからね」
「ああ、砂場はそういうもんだと思ってるんだ……」
完全に管理されている保育園の砂場では、足裏の感覚を育てるという意味で裸足で遊ぶ子が多い。でも、公園のは誰がどういう使い方をしているのかが分からない。だからと言って、まだ1歳になったばかりの陽太にその違いを説明するのは難しい。優香は息子の歩く先に危ない物が混ざってないかと注意する。
「陽太。ここで玩具で遊ぼう」
バッグから砂遊びセットを取り出した宏樹が、砂場の隅から呼び掛ける。歩き回るよりも場所を決めて遊ばせる方がまだ危険が少ない。宏樹は陽太が遊び始める前に、熊手の玩具で砂を掘り返して、怪我の原因になりそうな物が無いかを確認してくれていた。
叔父の誘いに乗って、陽太が玩具のショベルで砂を掘り始める。掘っているというよりは、周囲に砂をまき散らしているという感じだったが、得意げにショベルを動かしていた。
「ほら、陽太。ここに砂いっぱい入れて、バケツプリンを作ろう」
小さな緑色のバケツに宏樹がお手本で砂を入れると、すぐに陽太も真似し始める。二人で並んで遊んでいるその姿を、優香はしゃがみ込んで横から眺めていた。
実の父親である大輝とはこうやって遊べるような時間は無かった。まだ生まれたばかりで一日の大半を寝て過ごしている新生児には、父親の記憶なんてある訳がない。
だからきっと、大きくなった陽太が幼い頃を思い出す時、この子の傍にいたのは大輝ではなくて、その弟の宏樹なのだろう。
これから先、陽太と自分のどちらも愛してくれる人と出会う保証なんて無い。だからと言って、子供を理由に彼を選んで良いんだろうか。
「あ、荷物は俺が持つよ」
「ありがとう」
急に駆けだした息子の後ろを慌てて付いていこうとする優香の肩から、宏樹がひょいとバッグを取る。ずっしりと重い中身の大半が陽太の物で、外遊び用の玩具や着替え一式だ。
いつものように何だかんだと理由を付けて訪ねて来た宏樹が「そこの公園、今の時期ならどんぐりがいっぱい落ちてるよ」と言うので、天気も良いしと三人でお散歩がてら遊びに来ていた。
しかし、肝心のどんぐりには一切興味を示さず、陽太は歓声を上げながら遊具の間を走り抜け、砂場の前でその動きをぴたっと止めた。そして、その場で座り込んでから自分が履いている靴を引っ張り始める。
「え、裸足で遊ぶの?」
片足ずつを引っ張り脱ぐと、靴下もと優香の方に足を向けてくる。命じられるままに両方の足から靴下を回収して、砂場の隅に靴を揃えて置いた。陽太は躊躇いなく裸足のまま、砂の中へズンズンと歩いていく。
「保育園のは裸足で入るようになってるからね」
「ああ、砂場はそういうもんだと思ってるんだ……」
完全に管理されている保育園の砂場では、足裏の感覚を育てるという意味で裸足で遊ぶ子が多い。でも、公園のは誰がどういう使い方をしているのかが分からない。だからと言って、まだ1歳になったばかりの陽太にその違いを説明するのは難しい。優香は息子の歩く先に危ない物が混ざってないかと注意する。
「陽太。ここで玩具で遊ぼう」
バッグから砂遊びセットを取り出した宏樹が、砂場の隅から呼び掛ける。歩き回るよりも場所を決めて遊ばせる方がまだ危険が少ない。宏樹は陽太が遊び始める前に、熊手の玩具で砂を掘り返して、怪我の原因になりそうな物が無いかを確認してくれていた。
叔父の誘いに乗って、陽太が玩具のショベルで砂を掘り始める。掘っているというよりは、周囲に砂をまき散らしているという感じだったが、得意げにショベルを動かしていた。
「ほら、陽太。ここに砂いっぱい入れて、バケツプリンを作ろう」
小さな緑色のバケツに宏樹がお手本で砂を入れると、すぐに陽太も真似し始める。二人で並んで遊んでいるその姿を、優香はしゃがみ込んで横から眺めていた。
実の父親である大輝とはこうやって遊べるような時間は無かった。まだ生まれたばかりで一日の大半を寝て過ごしている新生児には、父親の記憶なんてある訳がない。
だからきっと、大きくなった陽太が幼い頃を思い出す時、この子の傍にいたのは大輝ではなくて、その弟の宏樹なのだろう。
これから先、陽太と自分のどちらも愛してくれる人と出会う保証なんて無い。だからと言って、子供を理由に彼を選んで良いんだろうか。