あなたが居なくなった後 ~シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました~
 夫の四十九日を終えてからの訪問客は、少しばかり賑やかだった。まるで新築祝いにでも駆け付けてきたかのように、自宅の内装を興味津々と眺めて、口々に勝手な感想を述べながら遠慮なく玄関の中へと入ってくる。

 お昼寝が終わる時間に合わせて来て貰ったおかげで、陽太は人見知りすることも無く、順に頭を撫でたり頬を突かれたりしてもご機嫌にしていた。

「この玄関ポーチが広めなところが大輝って感じだな。壁紙とかは塚田さんのセンスだろ?」
「うん、あいつじゃこんな上品なのは選ばないな。いつも変な幾何学模様のシャツとか着てたくらいだし。――あ、でも、そのソファーのサイズ感は大輝だな」
「いやー、しかし、子供は奥さん似で良かったよ。生まれた時にあいつが俺似だって言い張ってたから、マジで心配してたんだぞ」
「えー、でも耳の形とかは大輝だよね」
「男友達の耳の形なんて覚えてねーよ」

 男性三人の後ろから家の中へ入ってきた女性客の姿に、優香は少しばかり胸がキュッと痛むのを感じた。でも、そのことには気付かないフリをしながら四人を和室に置いてある仏壇へと案内していく。

「……大輝」

 それまで騒々しかった一同が、一斉に口を閉ざした。分かってはいたけれど、実際に目にしてしまうともう何も言えなくなる。学生時代からの友は仏壇に置かれた遺影の中で、相変わらずの笑顔を振り撒いているのだ。

 茫然としたまま遺影を見つめる者。目に溜まった涙を堪えながら、膝をついて俯いてしまう者。優香が用意した座布団へと座ることもままならず、その場で立ち尽くしてしまった者もいる。唯一の女性客は、うっと小さな声を漏らした後、両手で顔を覆って身体を震わせていた。

「……マジかよ、信じたくなかったんだけどな。タチの悪い冗談だったら良かったのに」
「ああ」

 残された遺族の負担を減らす為の家族葬は、それ以外の友人知人のお別れの時を後伸ばしにしてしまう。それは現実に起こった死に対する認識の機会を、必要以上に遠ざける。既に少しずつ少しずつ前へ進むことを考え始めている優香と違い、彼らはこれからそれを行わなければならないのだ。
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