あなたが居なくなった後 ~シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました~

第十六話・再婚話

 両親が家を建て替える間に仮住まいにしているアパートを訪ね、優香は玄関ドアを開いたと同時に後悔した。お世辞にも広いとは言えない2DK。元の家から近くて安いというだけで選んだらしく、かなり築年数のある木造2階建て。玄関を入ってすぐのスペースで、ダイニングテーブルの一席を陣取って湯呑でお茶を啜っている存在が目に飛び込んでくる。

 春夏物の落ち着いたデザインのベージュのスーツ。ショートヘアにはチラチラと白髪が混じってはいたが、背筋の伸びた座り姿で実年齢よりははるかに若々しく見えた。

「ちょっと遅かったじゃない。あらぁ、陽太もしばらく見ない内に大きくなったわねぇ」
「春子叔母さんも来てたんだ……」
「今日、優香が遊びに来るって姉さんから電話もらったから、急いで予定を合わせたのよ」

 母の妹である春子が、満面の笑みを浮かべて答える。保険会社に外交員として長年勤めている叔母は、やや早口でとにかくよく喋る。物静かな姉とは正反対に、賑やか過ぎるくらいだ。ずっと社会の荒波の中に居る叔母は、専業主婦の母とは二歳しか違わないと思えないほど華やかな雰囲気を持っている。

 出迎えてくれた母親に促されて、優香は陽太を抱っこしたまま部屋の中と入っていく。ダイニングに隣接して二間ある部屋は寝室とリビングとして使っているらしく、それぞれの部屋に入り切れなかった荷物が、ダイニングの壁際に段ボールのまま積み上げられている。

 引っ越しを機に随分と荷物を処分したとは聞いていたが、さすがに一軒家からの持ち出しとなると少なくはない。一部はトランクルームに預けていると聞いて納得だ。だって、何でこんなに物が多いのかと日頃から不思議だった実家が、この程度の箱の量だけで済むはずがない。

「あ、その横に置いてる段ボールに優香の荷物が入ってるから確認して頂戴。前に聞いた時には全部要らないって言ってたけど、卒業アルバムとか文集もあったし勝手に捨てられなかったわ」
「うん、分かった。後で見てみる」

 比較的に荷物の少ないリビングを選んで、抱っこしていた陽太を床へと下ろす。まだ手当たり次第に物を口へ入れたがる子供には、このごちゃついた空間は危険だらけだ。孫が来るのが分かってるのに、どうして片付けておいてくれないの、という台詞がいつも喉の近くまで出てきそうになる。
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