あなたが居なくなった後 ~シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました~

第十七話・結婚記念日

 カレンダーに書かれた星印は、優香と大輝の結婚記念日。毎年この時期には二人でお祝いを、と言いたいところだが、実はこうやって印を付けている割に、まともにお祝いしたことがなかった。

 記念すべき初めての結婚記念日は、あろうことか二人揃ってそのイベントが頭にはなく、気付いた時にはすでに二週間も過ぎていたのだ。

「あら、私は覚えていたわよ。言ってあげれば良かったわねぇ」

 と母からドヤ顔で笑い飛ばされたことは一生忘れない。

 付き合っている時も、何か月記念とか何年記念とか、そういうのをマメにお祝いしたがる友達もいたけれど、大輝も優香もそこまでの拘りはなかった。全く関係ない日に後から思い出して、「あ、もう2年になるねー」なんて話題には出すことはあったけど、あえてその日に何かをしようと計画したことはない。

 そんな二人だったから、入籍してから一年が過ぎていたことには気付いていなかった。そもそも大安吉日だったからというだけで決めた日にちは馴染みが薄い。バレンタインデーとかクリスマスとか、そういう別イベント事に絡めた日なら覚えていたのかもしれないが。

 そして、当然のように二年目の記念日も、気が付いた時には三日前のことになっていた。優香自身、前日までは覚えていたのに、当日になれば普段通りの一日を過ごしてしまっていた。妊娠中で悪阻のピーク時期だったこともあり、正直言ってそれどころじゃなかったというのもある。

 だから、三年目になる今年は忘れないように、キッチンカウンターの上に置いている卓上カレンダーへ星印を赤のボールペンで目立つように描いておいた。
 大輝と籍を入れてから、今日でちょうど三年。ようやく結婚記念日の当日に気付くことができたのだ。

 ――今年は何か、お祝いしたかったのになぁ……。

 まだ小さな陽太を連れて外食をというのは無理かもしれないが、いつもよりもちょっと高い食材を使って料理を作るのでもいい。何なら、食後にコンビニスイーツを食べながら、籍を入れに行った日のことを話題にするだけだっていい。夫と一緒にあの頃のことを思い出し合うだけでも十分に幸せだったはずだ。

 でも、その一緒に思い出を振り返り合いたかった夫は、もうこの世にはいない。寂しさで胸がグッと締め付けられてしまう感覚に、優香はキッチンカウンター前の床にへたり込んでしまう。身体を丸めて自分自身を抱き締めていないと、急激な不安が襲ってくる。
< 43 / 71 >

この作品をシェア

pagetop