あなたが居なくなった後 ~シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました~
 通っている保育園の契約医でもある小児科の荒木医師は、クリニックのイメージキャラクターのクマさんにそっくりのお爺ちゃん先生だ。丸い顔に優しい目で、いつも子供達にニコニコを笑い掛けながら診察してくれる。
 看板も壁紙もオリジナルキャラのクマのイラスト付きで、待合スペースはクマさんで溢れている。「クマ先生」と言えば、大抵の親子には通じてしまうくらい親しみやすい病院だ。

 診察用の丸椅子に座って優香は陽太を抱きかかえていた。まだ一人では座ることの出来ない子供は、親の膝の上で診察を受ける。看護師に手伝って貰いながら、息子の洋服を捲ったり、頭を固定したりと結構大変だ。

「まだ発熱したばかりだからね、もし明日も熱が続くようだったら検査した方がいいかもね」
「インフルエンザ、でしょうか?」
「まあ、熱もそこまで高くないし、どうだろうねー。これから上がりそうな感じではあるけど。来る時は夕方の診察にね、朝だとまだ反応は出ないから」

 今日のところは風邪症状の薬を出しておくから、と荒木医師は目の前のパソコンでカルテと処方箋を入力していく。
 医師のデスクの上には玩具がいっぱい置かれていて、陽太の興味はずっとそこに集中していた。壁一面にもいろいろなキャラクターの切り抜きが貼ってあったりと、診察室内は子供が飽きない工夫だらけだ。さすがに自宅ではここまではしてあげられない。

 診察後に受付前で会計を待っている間、優香は念の為にと貰った『インフルエンザに感染した場合』の注意書きプリントへ目を通していた。もし陽太がインフルだったら保育園は何日休まないといけないかと指を折って数えてみる。発症した後5日ということだけれど、今日は日数に含まないとなると来週まで登園は出来ない。

「インフルじゃないといいんだけど……」

 優香自身は仕事環境にとても恵まれているから、陽太の体調を理由にした休みは取りやすい。でも、そうじゃない家庭では一週間近くも自宅で子供を看病するのは大変なはずだ。優香と同じようにシングルで子供を育てている人も多いし、保育園に預けられないと困る人は多い。
< 47 / 70 >

この作品をシェア

pagetop