あなたが居なくなった後 ~シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました~
 小児科から帰って来た後も陽太の様子は普段通りで、帰宅して早々でお気に入りのブロックの箱をひっくり返していた。
 でも、元気そうだから大丈夫かと安心していたが、クマ先生の予言通りに夜中には隣で眠っている息子がうなされ始める。その額に手を当てて、優香は慌てて体温計を取りに起きた。

「……お熱、上がってきちゃったね」

 熱冷まし用のシートを陽太のおでこに貼って、顔や首の汗をガーゼで拭う。顔を真っ赤にしながらうなされている息子に、それくらいしか出来ないでいることが辛い。こんな小さな身体でウイルスと戦っているのかと思うと、可哀そうで仕方ない。せめて少しでも深く眠れるようにと、陽太の身体を優しくトントンする。しばらくすると、普段通りのスースーという寝息に変わって、少しだけホッとした。

 翌日の朝も陽太の熱は引かなかった。けれど、38度を超えているのにご機嫌は良いらしく、風邪薬を混ぜたリンゴジュースを美味しそうにゴクゴクと飲み切っていた。

 電話で予約を入れた夕方の診察では、優香と看護師の二人がかりでガッチリと身体を抑えつけられて、荒木医師から細長い綿棒を鼻の奥に突っ込まれ、陽太は涙を流しながらウイルス検査を受けることになった。
 結果は、インフルエンザ陽性。B型だった。

「今年はA型もB型もどちらも流行ってるからね……治った後も違う方にもう一度かかることもあるから」

 診断結果から新しい処方箋を作りながら、荒木医師がさらっと恐ろしいことを言ってくる。

「集団生活してると、誰か一人が感染したらあっという間だからね」

 そう、陽太は保育園で感染してしまった可能性が高い。勿論、それ以外の外出先でうつったのかもしれないけれど、一日の半分を過ごしている園では現にインフルが大流行中だ。保育園からは「感染拡大を防ぐ為、健康状態に問題ない子も可能な限り自宅保育してください」という前代未聞のメールが届いていたくらい。

 もし保育園に入れていなかったら、陽太はこんなに辛い思いをしなくて済んだだろう。自分が外で働きたい為に陽太を予定よりも早くから預けることになってしまったのが原因だ。何もかもが自分のせいだと思えてきて、優香は自己嫌悪に陥っていく。
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