あなたが居なくなった後
帰宅後、薬局で貰って来た処方箋をダイニングテーブルの上に広げて、今日服用させる分を取り分ける。
保育園にインフルだったと報告の電話を入れた際、陽太のクラスでは他の子達も何人かが診断を受けたと聞いた。そして、出席停止期間のことをかなり厳しめに念を押された。中には守らない人もいるってことなんだろうか?
宏樹には病院で診断を受けてすぐにメッセージを送っておいた。長くお休みさせて貰うことになるから、随分と迷惑をかけてしまう。
「ゴミくらい、まとめてから帰れば良かったかな……」
明日がオフィスのゴミ収集日だということを思い出して、ぽつりと呟く。処分する古いファイルがかなり溜まっていて、次の収集で出すつもりでいた。何もかもが来週まで持ち越しだ。
そんな風に仕事のことを考えていると、キッチンカウンターの上に置いていたスマホが低い音を響かせながら震え始めた。液晶を覗くと、宏樹の名前が表示されている。心配して電話してくれたのだろう。
「もしもし、今、大丈夫?」
「うん。さっき帰ってきたから、もう家にいるよ。ごめんね、しばらくお休みさせて貰うことになっちゃって」
「ううん、それは全然いいよ。陽太、可哀そうだね……優香ちゃんも感染らないよう、気をつけてね」
話し始めながら、宏樹が車のドアを閉める音がスピーカーから聞こえて来た。と、同じタイミングで家の前でもドアの閉まる音が聞こえた気がして、優香は「あれ?」と首を傾げる。
そして、まさかと思いリビングの窓に近付き、カーテンを捲って外の様子を覗いた。
「ど、どうしたの……?」
自宅の門扉の前で、宏樹がこちらに向かって手を振っているのが見えた。今まさにインターフォンを押そうとしていたところらしく、先に気付かれてしまったかと悪戯っぽく笑っている。
「差し入れのつもりで、適当に買って来たんだけど。陽太がインフルなら、直接会わない方いいかな?」
「ありがとう。でも、宏樹君までうつったら困るし……」
「うん、分かった。じゃあ、玄関の前に置いてくから、後で取りに出てくれる?」
通話を切ってから宏樹が玄関扉前まで歩いてくるのを、優香は窓越しに見ていた。こちらを向いて優しく笑い掛けてくる宏樹は、手に大きなビニール袋を提げている。それを玄関にそっと置いていく姿を見送っていると、いつの間にか一緒に窓の外を覗き込んでいた陽太が、宏樹のことを呼ぶように窓ガラスを叩き出す。
「うん、今日は宏樹君とは遊べないの。陽太が元気になったら、また遊んで貰おうね」
窓を叩いて呼び掛けてくる甥っ子に気付いたらしく、宏樹が大袈裟なくらいにブンブンと手を振って見せる。それに対して、さらに陽太が窓ガラスを興奮気味に叩き返していた。
保育園にインフルだったと報告の電話を入れた際、陽太のクラスでは他の子達も何人かが診断を受けたと聞いた。そして、出席停止期間のことをかなり厳しめに念を押された。中には守らない人もいるってことなんだろうか?
宏樹には病院で診断を受けてすぐにメッセージを送っておいた。長くお休みさせて貰うことになるから、随分と迷惑をかけてしまう。
「ゴミくらい、まとめてから帰れば良かったかな……」
明日がオフィスのゴミ収集日だということを思い出して、ぽつりと呟く。処分する古いファイルがかなり溜まっていて、次の収集で出すつもりでいた。何もかもが来週まで持ち越しだ。
そんな風に仕事のことを考えていると、キッチンカウンターの上に置いていたスマホが低い音を響かせながら震え始めた。液晶を覗くと、宏樹の名前が表示されている。心配して電話してくれたのだろう。
「もしもし、今、大丈夫?」
「うん。さっき帰ってきたから、もう家にいるよ。ごめんね、しばらくお休みさせて貰うことになっちゃって」
「ううん、それは全然いいよ。陽太、可哀そうだね……優香ちゃんも感染らないよう、気をつけてね」
話し始めながら、宏樹が車のドアを閉める音がスピーカーから聞こえて来た。と、同じタイミングで家の前でもドアの閉まる音が聞こえた気がして、優香は「あれ?」と首を傾げる。
そして、まさかと思いリビングの窓に近付き、カーテンを捲って外の様子を覗いた。
「ど、どうしたの……?」
自宅の門扉の前で、宏樹がこちらに向かって手を振っているのが見えた。今まさにインターフォンを押そうとしていたところらしく、先に気付かれてしまったかと悪戯っぽく笑っている。
「差し入れのつもりで、適当に買って来たんだけど。陽太がインフルなら、直接会わない方いいかな?」
「ありがとう。でも、宏樹君までうつったら困るし……」
「うん、分かった。じゃあ、玄関の前に置いてくから、後で取りに出てくれる?」
通話を切ってから宏樹が玄関扉前まで歩いてくるのを、優香は窓越しに見ていた。こちらを向いて優しく笑い掛けてくる宏樹は、手に大きなビニール袋を提げている。それを玄関にそっと置いていく姿を見送っていると、いつの間にか一緒に窓の外を覗き込んでいた陽太が、宏樹のことを呼ぶように窓ガラスを叩き出す。
「うん、今日は宏樹君とは遊べないの。陽太が元気になったら、また遊んで貰おうね」
窓を叩いて呼び掛けてくる甥っ子に気付いたらしく、宏樹が大袈裟なくらいにブンブンと手を振って見せる。それに対して、さらに陽太が窓ガラスを興奮気味に叩き返していた。