あなたが居なくなった後

第二十一話・ないものねだり

 前日の春子叔母さんから振られた再婚話は、正直言って辛かった。もう他の人達の中では大輝がとっくに過去の存在になっているのかと思うと、無性に胸が苦しくなった。

「子供が小さい今の内なら何とでもなるのよ。大きくなってから急に新しい父親ができて、それがキッカケで不良にでもなったらどうするの? 母親が後ろばかり向いてたら、陽太が可哀そうよ」

 せっかく持ってきた見合い話に優香がまるっきり興味を示さないことが、叔母である春子には不満だったようだ。仕事で生命保険も取り扱っているから、配偶者に先立たれた人達とは関わる機会が多い。だからこそ、可愛い姪には苦労が少なくて済むようにと最良の助言をしてくれたつもりらしい。

「……もしかして、あれなの? 向こうの実家から何か言われてるとかじゃないわよね? 長男の嫁なんだから老後の面倒を見ろとか、再婚するなら孫はこっちへよこせ、とか」
「ううん、それはない」

 怪訝な顔で聞いてくる叔母に対して、優香は速攻で否定する。

「もしそうだったら、死後離婚とかも考えた方がいいわ。姻族関係終了届っていうのがあって、役所で簡単に手続きできるんだから」

 放っておいたら話がいつの間にか全く違う方向へと進み始める叔母。優香はハァと露骨に深い溜め息をつく。すでに冷めてしまった緑茶の残りを一気に喉へ流し込むと、おもむろに席を立ってダイニングの隅に置かれた段ボール箱を開封し始める。黙って聞いていても嫌な気分にしかならないのなら、さっさと用事を済ませて家に帰った方がマシだ。母の字で『優香』と書かれた箱の中から、卒業アルバムなどを回収し終えると、リビングで遊んでいた息子のことを抱き上げる。

「残りは捨ててくれていい。後はもう要らない物しか入ってないから」
「あら、もう帰っちゃうの?」

 膝に乗せてあやしていた孫を取り上げられて、母親が残念そうな顔をする。それには少しばかり胸が痛んだが、今日はあまり長居したい気分じゃない。また近い内に遊びに来るからと言い残し、優香はそのまま実家を出た。


 普段通りに陽太を保育園の乳幼児用の保育室に預けた後、優香は職員室前の掲示板を眺めていた。育児に関わるお知らせなどを端から順に流し見していると、ふと一枚の掲示物で目を止める。

 ――ひとり親交流サークル?

 シングルマザーやシングルファーザーを対象とした育児サークルの案内。保健センターが主催になっていて、開催日が近かったこともあり、少しばかり興味が湧いてくる。念の為にと、優香はスマホのカメラを向けてそのお知らせを画像に保存した。
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