あなたが居なくなった後

心配と本音と

「優香ちゃん、吉沢君とはどうかな。短期間とは言え、上手くやっていけそう? もし何だったら……」

 正午を少し過ぎた時刻。今日は母親不在で弁当が無いからと、昼ご飯を食べに駅前のバーガーショップへと向かった吉沢の後ろ姿を見送って、宏樹が淹れたばかりの珈琲の入ったマグカップを優香のデスクの上へ置いてから聞く。自分用に入れたカップを片手で持ちながら、優香の顔を心配そうに覗き込んでくる。

 研修という名目で一時的に預かっている吉沢だったが、特にこちらから指導する手間もほとんど無く、業務的にはとても助かっている。けれど優香とソリが合わないとなれば、すぐにでも前オフィスへ受け入れ拒否の連絡をするつもりだった。義姉に嫌な思いをさせてまでして先輩に義理を果たそうとは考えていない。

 宏樹の言葉に、優香はしばらくきょとんと不思議そうな表情を見せる。吉沢がこのオフィスに来ることになった経緯は聞いているし、宏樹も納得して受け入れているものだと思っていた。それに、実際の彼の働きぶりは優香にとって良いお手本になり、経験者だけあって教えて貰うことは多い。最近では、所長である宏樹も営業に同行させたりして、それなりに頼りにし始めているように見えたのだが……。

「ほ、ほら、吉沢君って少し独特の雰囲気があるから……」
「そうだね。でも、良い子だよね?」

 資格取得という目標に向かって真っすぐな吉沢には、年齢相応の若者らしさというものが欠けている。プライベートな時間もずっと参考書を眺めて過ごしていると言われても違和感が無い。童顔で中性的な顔立ちをしているのにと、少し勿体無い気がする。自分があの年齢の時はどうだっただろうかと思い返すと、少し心配になってくる。恋愛や遊び、そういったものが中心な生活が必ずしも健全だとは言い切れないけれど……。

「良い子……まあ、そうか。優香ちゃんが苦手に感じてないのなら、別にいいんだ」
「すごく気をつかってくれるし、いろいろ教えてくれるから、私は来てもらえて良かったって思ってるよ」

 お弁当を食べながら今眺めている参考書も、吉沢から譲ってもらったものだと見せながら、優香は思い出し笑いをする。

「吉沢君、私があまりにも何も知らなさ過ぎて、びっくりしてたみたいだけどね」
「それは、彼にはバイトでも会計事務所の経験があるから。業務上のことは経験を積んだら何とでもなるけど、ヒトとして合う合わないもあるし、どうなのかなって思って――」
「確かに、25歳にしては真面目過ぎて心配にはなるよね。25歳かぁ、私はちょうど大輝と結婚した歳だ……」
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