あなたが居なくなった後
第二十四話・初めて会った君は
母親は親戚の法事へと出掛けていて、一人で静かにリビングでソファーに凭れて本を読んでいた時。何かの賞を受賞したとかいう話題作は、顧客との面談時の会話のネタになるかもというだけの理由で、義務的に目を通していただけだった。興味のない本はなかなかページが進まない。
とても穏やかな週末。一歳違いの兄は恋人と会うと言って昼過ぎから出ていった。デートの予定があるのに朝から近所をジョギングしていたのも知っている。どんだけ体力があるんだと、兄弟ながらも感心してしまう。
本のページを捲り、文字の羅列を目で追っていく。世間からどんなに高く評価されていようが恋愛小説は苦手だ。特に一目惚れ系の物は全く共感ができない。出会った瞬間に惹かれるなんていう経験は、今までしたことがない。それは単に、外見が好みだったってだけで、中身や人格なんて無視じゃないかと思ってしまう。そういうのはきっと、付き合っていく内に嫌になる。見た目も中身もタイプかどうかは一目じゃ分からないのだから。
――そう思ってた。ずっと。
外出してたはずの兄の車が自宅前の駐車場に停まったのには、エンジンの音で気付いた。しばらくして聞こえた玄関から入ってくる話し声で、大輝が彼女を連れて戻って来たのが分かった。
「すぐに取ってくるから、ここで待っててくれる? ――お、まだ出掛けてなかったのか」
「今日は夕方から。それ、彼女?」
リビングのドアを開けて、筋肉ゴリラな兄が顔を覗かせてきた。兄の後ろにいた女性はぺこっと頭を下げて宏樹に向かって「こんにちは」と挨拶して来る。人懐っこそうな笑顔で、雰囲気の良さそうな人。それが優香に抱いた第一印象だった。
「ほら、今度実写化する映画あっただろ。あれの原作漫画が家にあるって言ったら、優香が読みたいって」
「ああ、そう言えば昨日もテレビで紹介されてたね」
大輝は優香を宏樹の向かいのソファーに座るよう促すと、リビングを出て一人で二階の自室へと向かう。初対面の相手と二人きりで放置していくのが、大輝の気の利かないところだ。少し緊張している優香のことを、宏樹は気に留めていないふりをする。
青年誌に連載されていたような男性向け漫画を読みたがるタイプには見えないのにな、と意外に思いつつ、宏樹は本の栞を挟んでいたページを再び開いた。
とても穏やかな週末。一歳違いの兄は恋人と会うと言って昼過ぎから出ていった。デートの予定があるのに朝から近所をジョギングしていたのも知っている。どんだけ体力があるんだと、兄弟ながらも感心してしまう。
本のページを捲り、文字の羅列を目で追っていく。世間からどんなに高く評価されていようが恋愛小説は苦手だ。特に一目惚れ系の物は全く共感ができない。出会った瞬間に惹かれるなんていう経験は、今までしたことがない。それは単に、外見が好みだったってだけで、中身や人格なんて無視じゃないかと思ってしまう。そういうのはきっと、付き合っていく内に嫌になる。見た目も中身もタイプかどうかは一目じゃ分からないのだから。
――そう思ってた。ずっと。
外出してたはずの兄の車が自宅前の駐車場に停まったのには、エンジンの音で気付いた。しばらくして聞こえた玄関から入ってくる話し声で、大輝が彼女を連れて戻って来たのが分かった。
「すぐに取ってくるから、ここで待っててくれる? ――お、まだ出掛けてなかったのか」
「今日は夕方から。それ、彼女?」
リビングのドアを開けて、筋肉ゴリラな兄が顔を覗かせてきた。兄の後ろにいた女性はぺこっと頭を下げて宏樹に向かって「こんにちは」と挨拶して来る。人懐っこそうな笑顔で、雰囲気の良さそうな人。それが優香に抱いた第一印象だった。
「ほら、今度実写化する映画あっただろ。あれの原作漫画が家にあるって言ったら、優香が読みたいって」
「ああ、そう言えば昨日もテレビで紹介されてたね」
大輝は優香を宏樹の向かいのソファーに座るよう促すと、リビングを出て一人で二階の自室へと向かう。初対面の相手と二人きりで放置していくのが、大輝の気の利かないところだ。少し緊張している優香のことを、宏樹は気に留めていないふりをする。
青年誌に連載されていたような男性向け漫画を読みたがるタイプには見えないのにな、と意外に思いつつ、宏樹は本の栞を挟んでいたページを再び開いた。