あなたが居なくなった後
しばらくはキョロキョロと部屋の中を見回していた優香は、宏樹が読んでいる本に気付いたらしく、遠慮がちに声を掛けてくる。
「その本、どうですか? 友達から借りてこないだ読んだんですけど、私は最後まで主人公に共感できなくて……」
「うん、俺も全然。もうすぐ読み終わるけど、これがなんで評価されてるのか理解できない」
話題作だから「それメチャクチャ面白いですよね!」と話を合わせるべく真逆のことを言われるかと警戒したが、彼女も宏樹と同じ意見だった。世間一般の評価を押し付けてくるようなことはしなかった。二人で微妙な反応を示した本は、互いが同じ感性を持っていることを教えてくれた。
後から考えると、今まさに読んでいる最中の相手に向かって「それ読んだけど、イマイチでした」と言ってしまう優香もすごい。相手が宏樹じゃなかったら、軽く揉めてたかもしれない。
ほどなくして大輝が自室からコミックスを両手で抱えて降りてくると、優香はソファーでそれらを一巻から読み始めた。最新刊はまだ半分しか読んでなかったと、優香の隣で大輝まで漫画に目を通し始めて、リビングにはページを捲る音とそれぞれの息遣いだけしか聞こえない。
――この人達、デート中だよな?
向かいの席に並んでいる二人のことをチラ見して、宏樹は心の中で首を傾げる。雑誌に掲載されているような、とまではいかないにしても、デートというのはもっと特別感を演出するべきものだと思っていた。自宅デートだったとしても、もっと一緒に何かした方がいいんじゃないかと、心の中で二人に対して突っ込んだ。
特別を演出しないとヘソを曲げてしまうような女なら、いくらでも知っている。
「……ふふっ」
その時、優香が小さな声で笑った。他人の家で、彼氏の弟もいるリビングで、ガチの青年漫画を読みながら声を出して笑っていた。声を漏らしたことを気にする風でもなく、笑いを堪えた表情のまま、続きを読み進めていた。
それがとても自然体で、とてもいいなと思ってしまった。気負いせずに一緒に居られる存在を見つけた兄のことが羨ましくて仕方なかった。
それからは会う度にどんどん惹かれていくだけだった。二人が結婚を決めたと聞いた時は、胸が張り裂けそうな程苦しかったが、同時に彼女が自分の身内になるんだと思うと嬉しくもあった。もし相手が大輝じゃなかったら、彼女との接点は無くなるも等しいのだから。
「その本、どうですか? 友達から借りてこないだ読んだんですけど、私は最後まで主人公に共感できなくて……」
「うん、俺も全然。もうすぐ読み終わるけど、これがなんで評価されてるのか理解できない」
話題作だから「それメチャクチャ面白いですよね!」と話を合わせるべく真逆のことを言われるかと警戒したが、彼女も宏樹と同じ意見だった。世間一般の評価を押し付けてくるようなことはしなかった。二人で微妙な反応を示した本は、互いが同じ感性を持っていることを教えてくれた。
後から考えると、今まさに読んでいる最中の相手に向かって「それ読んだけど、イマイチでした」と言ってしまう優香もすごい。相手が宏樹じゃなかったら、軽く揉めてたかもしれない。
ほどなくして大輝が自室からコミックスを両手で抱えて降りてくると、優香はソファーでそれらを一巻から読み始めた。最新刊はまだ半分しか読んでなかったと、優香の隣で大輝まで漫画に目を通し始めて、リビングにはページを捲る音とそれぞれの息遣いだけしか聞こえない。
――この人達、デート中だよな?
向かいの席に並んでいる二人のことをチラ見して、宏樹は心の中で首を傾げる。雑誌に掲載されているような、とまではいかないにしても、デートというのはもっと特別感を演出するべきものだと思っていた。自宅デートだったとしても、もっと一緒に何かした方がいいんじゃないかと、心の中で二人に対して突っ込んだ。
特別を演出しないとヘソを曲げてしまうような女なら、いくらでも知っている。
「……ふふっ」
その時、優香が小さな声で笑った。他人の家で、彼氏の弟もいるリビングで、ガチの青年漫画を読みながら声を出して笑っていた。声を漏らしたことを気にする風でもなく、笑いを堪えた表情のまま、続きを読み進めていた。
それがとても自然体で、とてもいいなと思ってしまった。気負いせずに一緒に居られる存在を見つけた兄のことが羨ましくて仕方なかった。
それからは会う度にどんどん惹かれていくだけだった。二人が結婚を決めたと聞いた時は、胸が張り裂けそうな程苦しかったが、同時に彼女が自分の身内になるんだと思うと嬉しくもあった。もし相手が大輝じゃなかったら、彼女との接点は無くなるも等しいのだから。