まるっとおまけな人生だから、今度は好きに生きていいよねっ
 テティウスが庭園内をうろうろしている時、侍女や護衛の騎士は少し離れたところからついてくる。
 もう少し自由にさせてもらえたら、こっそり魔術を使ってみるのに。花壇の花の香りをかぎ、名前のわからない木の実を拾う。部屋に戻ったら、図鑑で調べてみよう。
 こうやって、身体を動かしているだけで楽しくなってくる。もう少しで、馬を飼っている場所までくる――というところで、細い声が聞こえてきた。

「みぃみぃ」
「あ、猫」

 馬場の柵の側、小さな猫がいる。テティウスを見て細い声をあげた猫は何かを思い起こさせた。

(あの時の猫を思い出すなぁ……)

 雨に濡れ、毛がぺったり張り付いた小さな黒猫。
 手にすくい上げたところで、歩道橋にクレーンを積んだトラックが激突した。なるべく身体を丸めたつもりだったけれど、あの猫は無事だっただろうか。
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