扉を壊して、閉じ込めて
「今回も駄目だったね」

 目を覚ますと、そこには見慣れた男がいた。
 真っ白な長い髪に、蒼白にも見える透き通った肌。切れ長の瞳は血のように赤く、唇から覗く舌もまた然り。
 故郷の和装によく似た着流しは、そんな彼の異質さを如実に表すかのような漆黒。
 どこを取っても麗しく、存在そのものが不気味で堪らないこの男は、言葉とは裏腹に嬉しそうに口角を上げていた。

「もう諦めたらどうだい。扉は応えてくれないよ」
「……少しぐらい、残念そうな顔、してください」
「残念だよ? 君がまた泣きそうな顔をしているから」

 骨ばった手の甲で、やんわりと頬を撫でられる。真紅に塗られた爪は鋭く尖っており、初めてそれを向けられたときに怯んだせいか、彼が触れてくる際は必ず手の甲や平を用いるようになった。
 そんな些細な優しさを見せられたところで、ささくれた気分が良くなるわけでもないのだが。

「どうして扉をくぐれないんですか。私、……帰りたい、だけなんです」

 「アリス」の涙声に、その男は困ったように笑うだけだった。
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