扉を壊して、閉じ込めて
 アリスは、幾度もあの扉をくぐってきた。
 世界のどこにも存在せず、アリスの中にだけ存在する扉。
 虚空に浮かぶ扉をくぐるたび、それは次から次へと姿を変える。

 色とりどりの花で飾られた栗色の扉の先には、一面の花畑が広がっていた。
 冷気を纏う氷づけの扉の先には、厳しくも美しい銀世界が。
 白く飾り気のない扉の先には、ひどく騒がしい人と鉄の街が。
 朽ちた枝で編まれた扉の先には、死にゆく樹海が。

 アリスは数え切れないほどの扉を──無数の世界を渡り歩いてきた。
 何度も、何度も、何度も、何度も。
 扉を開けては落胆し、また次の扉を探してくぐる。

 彼女の目的はただ一つ。
 故郷へ帰ることだった。

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