扉を壊して、閉じ込めて
 ──喉が痛い。昨日は扉を開けようとしなかったのに。

 爽やかに白む空をどこか恨みがましく睨んでいたアリスは、素肌に絡みつく腕を見下ろし、昨晩の出来事を思い出してはじわりと頬を赤らめる。
 体のあちこちが痛むが、中でも驚いたのは胸元や二の腕に散る赤い痕の多さだ。よく見るとうっすら歯型のようなものまである。関節に比べれば痛みなど殆ど無いが、視覚的に少し……。

「まだ寝ていなよ」

 ぎゅうと片腕で抱き締められ、ずれた布団を掛け直される。ついで寝かしつけるように頭を撫でられながら、アリスは掠れた声で告げた。

「……寝てる間に、痕が増えたと思って」
「ごめんね。つい」

 ひとつも悪びれていない。何なら今うなじに吸い付いた。
 抗議しようにも身動きが取れず、アリスは諦めて氷雨に体を預け──パッと離れる。

「……」
「……」

 信じられないと言わんばかりに絶句するアリスを見て、氷雨はふにゃりと笑った。

「ごめんね、こればっかりはね」
「え、ちょっと、待って……昨日、したのに」
「意外と元気そうだからもう一回いいかな? ありがとう」
「え」

 急いで逃げようとしたときには手遅れで、あっという間に唇が重なっていた。
 昨晩の彼の言う通り、その日は他のことなんて何も考えられなかった。

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