完璧御曹司の溺愛


 
 朝の食事が終わると、秀和は市川に車の手配を命じた。

 そして、見送りをする涼子と共に玄関へ向かう。

 
 悠斗は、リビングのソファにかけていたスーツの上着を羽織っていた。


「悠斗、もう行くの?」


 朝食の皿を片付けていた理央は、悠斗の元へ駆け寄った。


「うん、行ってくるよ」


 悠斗は大きな手のひらで包むように、理央の頭を優しく撫でる。


「帰りは何時くらいになる?」


「俺は、親父よりも早く帰ってこられるよ。たぶん、5時くらいかな」


「5時…」


「その間、理央は良い子で待っててね」
  


「……………子供扱い?」



 心の声が、そのまま口から出てしまった。


 ハッと気づいた時は既に遅く…

 その言葉を耳にした悠斗は、クスッと笑っていた。



「大人の扱いが良かったの?」


 
 理央がカッと赤面すると同時に、フワリと抱きしめられていた。


 悠斗のシャツは洗いたての石けんの香りがした。


 あっ…いい匂い………


 匂いに気を取られ、気づくのが遅れた。


 片手で前髪を上げられ、額からチュッと口づけの音がした。



「続きは今夜にとっておく?」


「……!」


 悠斗は、言葉を詰まらせたまま、動けない理央を満足そうに眺めてから、理央を腕から解放した。


 そして「行ってくるね」と、名残惜しそうに、理央の髪をサラリと掬う。



 理央はリビングを出ていく悠斗の背中を眺めながら「新婚さんみたい…」と呟いた。


 額の熱と胸の高鳴りは、しばらくの間消えなかった…。






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