完璧御曹司の溺愛


 理央は市川から、野菜の収穫のやり方を教わった。


 そして市川が、野菜以外の買い出しに出かけたあと、玉ねぎやジャガイモなど、カレーに必要となる野菜を、次々と収穫していく。


 市川と悠斗が、心を込めて作った野菜は、太陽と良質な土に恵まれて、大きく立派に育っていた。


 野菜を自分の手で収穫する事が初めての理央は、額にうっすらと汗をかきながらも楽しんでいた。


 私は今まで屋内で絵を描いて過ごす事が多かったから、晴天の中で身体を動かす事が、こんなに気持ちいいなんて知らなかった。

 私も、市川さんと悠斗の野菜作りに参加してみたい。

 市川さんはきっと、私にそんな事はさせられないって言い出してしまいそう…

 そうだ、悠斗が帰ったら、こっそり頼んでみようかな?
 

 そんな事を思いながら目の前にある人参を引き抜こうとした時、足元の自分の影に、大きな影が被さるのを見た。



「____何してるの?」


突然、背後から降りかかる、知らない男性の低い声。


「…っ!」


 理央が先程まで使っていた収穫用の鎌が、いつの間にか側からなくなっている事に気が付き、サッと青ざめた。


「今、屋敷にいるのって、君一人?」


 不審者?泥棒?逃げ出してきた凶悪犯!?

 それらの思考がグルグル周り、男性に背を向けたまま、理央の頭は真っ白になった。


 一体、誰なの!?

 だけど、理央は怖くて、後ろを振り向けない。


 市川さんは先程、出かけてしまったし、今は悠斗も母も、おじさんもいない。


 この屋敷の中庭に、私は今、この不審人物と二人きり……

 ど、どうしよう……


 冷たい汗が流れ、身体は更に硬直していく。


「どうして何も答えないの?」


 逃げよう!

 逃げなきゃ、私は殺されるかもしれない!


 でも女の足なら、きっとすぐに捕まってしまう。

 それなら、イチかバチかだ……!


 理央は、軍手をした手で、手元の土を思い切り握りしめ、そして振り返ると、その土を相手の顔面に思いきり浴びせた。


「きゃあっ!どっか行ってぇ!!」


「うっわっ!!」


 相手の男は、突然飛んできた土に狼狽えると、理央の前で派手に尻もちをついた。

 理央から奪ったと見られる鎌が、地面に転がり落ちる。



 あれ?

 意外と弱い……?




< 117 / 221 >

この作品をシェア

pagetop