完璧御曹司の溺愛
理央は市川から、野菜の収穫のやり方を教わった。
そして市川が、野菜以外の買い出しに出かけたあと、玉ねぎやジャガイモなど、カレーに必要となる野菜を、次々と収穫していく。
市川と悠斗が、心を込めて作った野菜は、太陽と良質な土に恵まれて、大きく立派に育っていた。
野菜を自分の手で収穫する事が初めての理央は、額にうっすらと汗をかきながらも楽しんでいた。
私は今まで屋内で絵を描いて過ごす事が多かったから、晴天の中で身体を動かす事が、こんなに気持ちいいなんて知らなかった。
私も、市川さんと悠斗の野菜作りに参加してみたい。
市川さんはきっと、私にそんな事はさせられないって言い出してしまいそう…
そうだ、悠斗が帰ったら、こっそり頼んでみようかな?
そんな事を思いながら目の前にある人参を引き抜こうとした時、足元の自分の影に、大きな影が被さるのを見た。
「____何してるの?」
突然、背後から降りかかる、知らない男性の低い声。
「…っ!」
理央が先程まで使っていた収穫用の鎌が、いつの間にか側からなくなっている事に気が付き、サッと青ざめた。
「今、屋敷にいるのって、君一人?」
不審者?泥棒?逃げ出してきた凶悪犯!?
それらの思考がグルグル周り、男性に背を向けたまま、理央の頭は真っ白になった。
一体、誰なの!?
だけど、理央は怖くて、後ろを振り向けない。
市川さんは先程、出かけてしまったし、今は悠斗も母も、おじさんもいない。
この屋敷の中庭に、私は今、この不審人物と二人きり……
ど、どうしよう……
冷たい汗が流れ、身体は更に硬直していく。
「どうして何も答えないの?」
逃げよう!
逃げなきゃ、私は殺されるかもしれない!
でも女の足なら、きっとすぐに捕まってしまう。
それなら、イチかバチかだ……!
理央は、軍手をした手で、手元の土を思い切り握りしめ、そして振り返ると、その土を相手の顔面に思いきり浴びせた。
「きゃあっ!どっか行ってぇ!!」
「うっわっ!!」
相手の男は、突然飛んできた土に狼狽えると、理央の前で派手に尻もちをついた。
理央から奪ったと見られる鎌が、地面に転がり落ちる。
あれ?
意外と弱い……?