完璧御曹司の溺愛



 相手は呆気にとられたようにポカンと口を開け、理央を見上げている。

 理央も、同じようにその男性の姿を伺った。


 年齢は、理央や悠斗と同じくらいだろう。

 シックなパンツとジャケットが都会的で、この畑とはかなり不釣り合いな印象を与えていた。

 今は、理央が投げた土によって、その姿も無残に汚れてしまっているけれど…。

 髪は金に近い茶だが、顔の作りはしっかりとした日本人だ。


「あ、あのっ……大丈夫ですか?」


 理央から声をかけると、その男性は我に返ったように、瞬きをした。

 
「えっ…あ、あぁ…。ねぇ、大丈夫と思うなら起こしてくれると助かるな?」


 手を差し出され、理央は泥だらけの軍手を外して、男性の手を握ると、その身体を起こしてあげた。


「あーぁ、僕の一張羅が土まみれ…」


 男性は、無残な自分の格好を見て、大袈裟にため息をついた。


「ご、ごめんなさい」


 立ち上がると、悠斗程ではないが身長がある。

 顔まで飛んだ土がなければ、容姿もなかなか整っている。

 メンズファッション誌のモデルが、表紙からそのまま出てきたような。


「いや、先に驚かせたのは僕の方だし、気にしなくていいけどね」

 
 ところで一体、誰なのだろうか。

 この家に住んでいるという事はなさそうだけど、こうして自由に入ってこられるような人だよね…と、理央は落ち着きを取り戻した頭で考える。


「ここに女の子なんていた事なかったからさ、畑泥棒かとも思ったんだけど、その様子じゃ違うみたいだね…」


 は、畑泥棒?

 ふと自分も、土をかけてしまう直前、彼をよからぬ者設定にしてしまった事を思い出した。


 確か、逃げ出してきた凶悪犯とか?


「急に驚かせたりしてごめんね」


「いえ、私の方こそ、いきなり土をかけてしまったから…」


「それじゃあ、ここは、おあいこって事で許してくれるかな?」


 目の前で、明るく、人懐っこい笑みを浮かべる彼は、とてもそんなふうには見えなかった。

 理央はとりあえず、ホッと胸をなでおろす。





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