完璧御曹司の溺愛
「ところで、君、ここのお手伝いの子なんでしょ?」
彼は、服についた土を丁寧に払いながら理央に聞いてきた。
「えっ」
「ここで野菜を収穫してるって、そういう事でしょ?今晩の食材集めってところ?」
「ま、まぁ、そうですね…」
この家のお手伝いさんではないけれど、私が夕食を作るのだから、まぁ、そんな感じかな?
「もちろん、僕は怪しい者じゃないよ?こんなにお洒落な格好をしてる不審者なんていないでしょ?僕の疑いはちゃんと晴れてるよね?」
お洒落って、自分で言っちゃうあたりがまた怪しいけど、私に危害を加えて来そうな様子は見受けられない。
「大丈夫です」と理央は答えた。
「あぁ、良かった。それにしても親父さんは、市川以外のお手伝いは雇わないって言ってたんだけど。君、余程、親父さんに好かれてるの?」
「……?親父さんって、秀和おじさんのこと?」
「秀和おじさん?うわ~、親父さん、メイドにそう呼ばせてるんだ。キッツいなぁ。それ親父さんの趣味なの?それって、ここの息子は認めてんの?」
「悠斗のこと?」
「呼び捨て?あいつもメイドにそういう趣味あるの?しばらく見ないうちに、あの親子、大丈夫かな…」
嫌悪感をむき出しにしながら、男性は何やらボソボソと呟いている
彼は、私をメイドだと思い込み、何やら重大な思い違いをしているようだけど…
「あの、趣味とか、そんなんじゃないと思いますけど…」と、理央が訂正しようとするも…
「でも分かるよ」と、彼は理央の言葉の上から言葉を被せてきた。
「僕も、君になら、そう呼んでもらいたいな…」
「え…」
「メイドなら十分、僕の許容範囲」と、彼はペロリと上唇を舐めて、理央に身体を近づけてきた。
「ねぇ、君ってさ?」
「はい?」
一転、ただならぬ雰囲気を感じ取った理央は、一歩下がって彼から離れた。
「可愛いね」
間近に顔を近付けられて、ニコッと笑われた。
「僕、君の事、実はめっちゃくちゃタイプなんだよね。かなりの直球になるんだけどさ、僕の彼女にならない?」
「は?」
「あっ、もしかして、もう彼氏いるとか?でも、僕にしときなよ~。僕の家は、金も地位もそれなりにあるよ?それにさ、結構いい男でしょ?」と、自分の顔をニコニコと指差す。
そんな軽薄な発言に、軽っ!!と、理央は心の中で叫んでしまった。
「そんなのっ、無理に決まってます!」
理央は顔を真っ赤にした。
突然現れて、こんな軽口をたたく人なんて理央の周りにはいない。
悠斗だって初対面で好きと言ってきたけど、自分の顔や権力をかざして、付き合おうなんて言ってこなかった。
「そんな純真で初心なところも、ますますそそられるなぁ…」
「か、からかわないで下さい!私、忙しいので失礼します!」
理央は眉をつり上げて、叫ぶように言った。
「も~怒らないでよ。からかってなんかないよ?僕は至って大真面目。それに、こんなところで出会うなんてさ、ちょっと運命とか感じたりしない?」
「ここ、畑なんですよ?何一つ感じる要素なんかありません!」
「ははは!それってさ、僕が今こんな酷い格好してるから?ね、今日の夜って、ちょっと時間あるかな?僕、出直してまた来るからさ!その時ちゃんと君を口説かせてよ!ね?」
「はぁっ?」
「ひとまず帰って着替えてくるから!じゃあまた、後でね!」
「あ、ちょっと…!」
名前も名乗らずに、好きな事だけを告げて、彼は駆けだして行ってしまった。
何て、人の話を聞かない変わった人なんだろう。
理央はため息をついて、収穫作業を再開した。